「まったく何なのよコイツら!」
「まったくです。だから私はうわっついた人間が苦手なのです」
「ほんとほんと! リア充め!」

わたしとトキヤが同じソファに座って中傷の的にしているのは、只今地上波で絶賛放映中の恋愛バラエティー番組だ。

彼と親友の浮気を突き止めた彼女が、彼に手痛い制裁を下すため、テレビ局の協力のもとに色々な企画を考えるのだが、今日のカップルは本当に駄目すぎて見ていられなかった。
特に、浮気がバレた彼が、あろうことかこれからは三人で仲良く付き合おうなどと抜かしたシーンは、わたしたちの感情を最大限に逆撫でし、結果わたしとトキヤの苛々は徐々にヒートアップしていくのだった。


「だいたい浮気をするなど考えられませんね。自分が浮気性だと自覚しているのなら、女性と付き合うべきではないのです」
「だよね! しかも開き直って三人で付き合おうなんて、馬鹿じゃないの!?」
「まったくもって有り得ません。この男には理性というものが欠落しています」
「ほんとだよ。トキヤを見習えってのよ!」

「……ももちゃん、トキヤ、まぁ落ち着いてよ。はい、コーヒー」

一十木くんが苦笑しながらコーヒーをわたしとトキヤの前に置く。
ここは早乙女学園の学生寮で、トキヤの部屋でもあるが半分は一十木くんの部屋でもある。わたしとトキヤは一応アイドルの卵と作曲家の卵のパートナーで、今日は卒業試験の曲を仕上げるためにこの部屋へ訪れていた。それがいつの間にこんなことになったのか、それはわたしもトキヤも分からないと思う。
無意識のうちについていたテレビを見ていると、作曲作業よりもそちらに夢中になってしまい、さらにトキヤまでもがそれに夢中になり、わたしたちは揃って眉間に皺を刻みながら気付けばテレビに文句を言い続けていたのだった。少し冷静になって気付いたが、わたしたちは一十木くんに非常に申し訳ない事をしていたように思う。

一十木くんに淹れてもらったコーヒーをトキヤと一緒に飲む。しかしこれでなんとか落ち着けると思ったのも束の間、テレビではあの彼女らに新展開があったようで、トキヤがわたしの腕を掴みながらそれを知らせた。

「もも、見てください。彼の浮気相手が彼に同意しました。三人でお付き合いをする事に賛成のようです」
「えーっ!? アリエナイ!」
「私もももに同感ですね。この女性はなんて節操がないのでしょう」
「そうだよ! こんなの、わたしがトキヤと付き合ってるのに一十木くんとも付き合いたいって言ってるのと同じだよ!」
「えっ!?」

それは単なる喩え話だったはずなのに、わたしがそれを言った瞬間トキヤが驚いて固まり、一十木くんの方はなぜか真っ赤になって固まっていた。

「え、なに、何なのこの空気」

キョトンとする以外どうもできないわたしは、再びテレビに視線を向け、トキヤの腕を引っ張った。

「ちょっとトキヤ、彼女の方、男に制裁加えるどころか三角関係を承諾しそうなんだけど!」
「なにっ、本当ですか!? 破廉恥な!」

なんとか気まずい空気を払拭し、再びテレビに釘付けになったわたしたちは、いつの間にかソファの上でお互いに手を握りしめながら事の顛末を眺めている。


テレビの中の彼女は、わたしたちの期待を大きく裏切り、なんと彼の馬鹿馬鹿しい提案、三角関係をあっさりと承諾してしまった。
その瞬間のわたしとトキヤの顔は、有り得ない程に歪んでいただろう。

「何なのコイツら! 馬鹿じゃないの!」
「理解不能ですね」
「何のためにテレビで放送してんのよ!」
「視聴者は制裁を期待していたでしょうに……」
「ほんとほんと! すぐに楽な方へ行きたがる……だから嫌いなのよ、うわっついたリア充って!」
「そうですね。私も嫌いです」
「リア充爆発しろ!」

「……」

テレビに向かって一通り罵詈雑言を吐くと、ふいに隣から視線を感じた。
一十木くんが困ったように眉を下げながら、わたしとトキヤを交互に見つめている。

「……一十木くんどうしたの? あ、うるさくしてごめんね」
「いや、うるさいのはいいんだけど、ももちゃんとトキヤさ……」
「うん?」
「二人、付き合ってるんだよね? って事はももちゃんもトキヤも一応リア充だよ?」


そういえばおおっぴらにベタベタしたりはできないが、わたしとトキヤは一応恋人同士なのだった。あまりにもキスとかそういう事をしないから、わたしたちはお互いの関係をすっかり忘れていた。

「ももちゃんもトキヤもストイックすぎるんだよ。だから心のどこかでああいう自由奔放な恋愛してる子たちを羨ましがってるんだと思うよ?」

一十木くんの言うことはもっともだった。言い返す言葉など見つからない。

「堂々と、って訳にもいかないけど、そんなに我慢しなくても、キスくらい、してもいいんじゃないかな?」
「キッ……キス!」
「そそそ、そんな!」
「あはは、そう緊張することないって! 唇をくっつけてチューッとしちゃえばいいんだから!」
「い、いやそれは」
「わ、私だって未知の領域で……」
「トキヤ、ガンバッ!」
「音也!」

驚いて真っ赤になるわたしたちを余所に、一十木くんが楽しそうに部屋から出て行く。本人はどうやら気を利かせたらしいのだが、残されたわたしたちにとってはひどく重苦しい雰囲気になってしまった。

自然とトキヤと目が合うと、もう何も言えなくなってしまう。その深い漆黒の瞳が僅かに潤んでいて、妙に色っぽい。

「ええと」
「えっ?」
「そ、それじゃあ、しましょうか、キ、キス」
「ええっ!? ……んむっ」

反論する間もなくお互いの唇が重なる。
トキヤがわたしの後頭部をしっかりと押さえ込んでいるので、逃げる事もできない。

まぁ、なんだか全然ロマンチックではないけれど、これでしばらくはあの恋愛バラエティー番組を見ても、文句は言わずに済みそうな、そんな気がした。





おわり


 

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