最近早乙女学園の学生寮で頻繁に女子の下着が盗まれる事件が発生している。
この学園の学生寮は、責任者が責任者なだけに、どの場所にも万全過ぎるセキュリティが敷かれている。元々この学園に不審者など入れはしないのだ。
それなのに、犯人はいとも簡単にそれらを掻い潜って犯行に及んでいる。おそらく犯人は相当の切れ者か幸運者に違いない。
幸いわたしはまだ被害には遇っていないが、学生寮の女子一同は日々その犯人に悩まされており、女生徒だけで話し合った結果、わたしたちは犯人確保のため、独断で調査を開始する事になったのだった。




「……で、それでなぜ私の所へ来たのですか?」
「え、あー……何となくトキヤなら何か知ってるんじゃないかな……って?」
「疑問形にされても困ります」
「う……」

わたしの学生寮の隣部屋に住んでいるアイドル候補生の一ノ瀬トキヤは、周囲には内緒だがわたしの彼氏である。
彼はいつも冷静沈着で、その振る舞いは恋人のわたしでさえも時々腹が立つ程落ち着いている。しかしそんなクールな彼にも欠点はある。

「……まさか、ももは私がこの学生寮の女子の下着を盗んでいるとでも思っているのですか? 心外ですね」

付き合い始めてから分かった事だが、トキヤには妙な性癖がある。それは普段の彼からは考えられぬ程マニアック過ぎて一言で言い表す事はできない。行為中の写真を撮りたがったり変なコスプレを強要したり、時折わたしを痛め付け、それで興奮していたりと、とにかく彼の性癖は未だに未知数だ。
そんな折り耳にしたのが下着泥棒の話で、実はわたしは真っ先に頭の中にトキヤの顔を思い浮かべてしまった。目の前の彼はずいぶん不快そうな顔をしており、一時とはいえトキヤにあらぬ疑いをかけてしまった事を僅かに後悔した。

「え、えっと、ごめん! 大丈夫、わたしはそんな事思ってないから安心し」
「まぁ、確かに、もものイヤラシイ下着なら、何着か持ってはいますが」
「……うええええ!?」

トキヤの爆弾発言により、わたしはほんの数秒前反省した事をひどく後悔した。わたしはトキヤにあらぬ疑いをかけていた訳ではなく、ただ核心をついていただけなのだから、反省などする必要はないのだ。

「ななな、何言ってんのトキヤ!? っていうかわたしの下着持ってるってどういう事? ちゃんと説明して!」

わたしがこんなに憤慨しているというのに、目の前のトキヤはいつもの調子で落ち着いている。腹が立って仕方ない。
ソファに座る彼の隣に腰を下ろし、わたしはできるだけ怖い顔を作ってトキヤを睨んだ。

「何なんです、藪から棒に」
「藪から棒じゃないよ。それよりどういう事なの? わたしの下着持ってるってなに!?」
「まったく、騒々しいですね」

トキヤはわたしに詰問されても尚顔色ひとつ変えず、自分の背中に手を回すと、どこから引っ張り出したのか、それをわたしの目の前に掲げた。

真っ赤なブラジャーと少し透けたレースのショーツ。それは紛れもなく数ヶ月前に失くしたと思っていたわたしの勝負下着だった。
まだ何回かしか着けていなかったそれは数ヶ月前学生寮のランドリーで失くしたとばかり思っていた物だったが、その時そのランドリーはずいぶん混雑しており、わたしはただ他の女生徒に洗濯物を間違えて持っていかれたものだと思っていた。それがまさかトキヤの手に渡っていたなんて、わたしは夢にも思っていなかった。



「っていうかやっぱりトキヤが下着泥棒じゃない!」
「心外ですね。私は他の女生徒の下着になど興味はありません。興味があるのは、ももの下着だけです」
「……ちょっ、何よ。その、いいこと言ったぞ、みたいな顔……」

わたしはトキヤの堂々とした返答に、まともに反論する事ができなかった。それほど堂々と決められると、トキヤのしている事が悪いこととすら思えなくなるから不思議だ。
だが、騙されてはいけない。トキヤはこうして自分を正当化しようとしているだけなのだ。


「ちょっとちょっと! あ、いや、まずはそれ返して!」
「いえ、返しません」

とりあえずトキヤを詰る前にわたしの下着を取り戻そうとそれに手を伸ばす。だが、それを取り戻すはずのわたしの手は虚しく空を切り、何も掴む事ができなかった。

「ト、トキヤ! トキヤがそれ持ってたって何の意味もないじゃない! 返して!」

再度トキヤの手から下着を取り返そうとするも、それはあっけなくトキヤのシャツの中に隠され、わたしからはもう手を出すことができなくなってしまう。

「もも、ももは本当に私が君の下着を持っている事が意味のない事だと思っているのですか?」
「は、はぁ? あの、ちょっと言ってる意味が分からないんだけど」
「分からないのなら教えてあげましょう、もものイヤラシイ下着を私がどう使うか」
「えっ……」
「最初に断っておきますが、このももの下着は私が使用済みですから」
「はぁ!? しししし、使用済み!?」
「そうです。使用経緯ですが、もものショーツは、自慰行為をする時に……」
「あーあーあーあーもういい、言わんでいい、分かった! 返さなくていいから!」

トキヤには何を言っても無駄だと観念したわたしは、潔くその下着を諦め、そう叫んだ。
トキヤはそれを聞き、とても満足そうに笑った。わたしは逆に、なぜだか不戦敗したような気がして悔しい。


「……でも、本当にトキヤがやったんじゃないでしょうね、下着泥棒」
「当たり前です。わたしはもも以外の他人が使用した下着になど興味ありません」
「……んー、何だか色々問題発言なような気もするけど……信じてあげる」
「ありがとうございます、もも」

言葉とは裏腹に全く有り難みなど感じていないようなセリフをひとつ呟き、トキヤはわたしの肩を抱き寄せた。耳元に軽くキスをして、囁くように甘い声を浴びせかける。



「ト……キヤ?」
「もも、私を疑った罰として、今、ももが着けている下着を私にください」
「……」
「……」
「……」
「……」

わたしはトキヤの顔に横から頭を激突させ、彼が鼻と口を押さえている間にその部屋から急いで飛び出した。
なんだかわたしはトキヤと付き合って行くことに、とてつもなく不安を覚えた。






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