「……」
「ももちゃん、そんなに固くなることないよ〜、これは恋人同士が聖夜に行う儀式みたいなものなんだから!」

私には良く分からないが、十二月二十四日の今日は、「くりすますいぶ」と言って、恋人たちが寄り添って夜を過ごすのがしきたりらしい。飛鳥君が先程そう教えてくれた。
私は飛鳥君のその言葉に促されるように、のこのことこんな所までついて来てしまっている。

蒼翠学園の四葉寮にある飛鳥君の部屋は、男の子の部屋とは思えない程どの私物も綺麗に整頓されていた。名家の子息が通う学園だけあり、家具はどれも豪奢なものばかり。床にはごみ一つ落ちていない。
そんな部屋の端に置かれていたベッドに、なぜか私は飛鳥君と並んで座っていた。自分の太ももと飛鳥君のそれがぴったり触れ合い、私はいつも以上にドキドキしている。
飛鳥君は私と向き合い、ゆっくりと私の頬に手をあてた。

「キス、していい?」
「ん、うん……」

思わず裏返ってしまった返事に、飛鳥君がクスリと笑う。そして徐に首を傾け、私の唇に唇を重ねた。

数秒間そのままでいると、飛鳥君が突然私の下唇を食むように吸った。

「!? あ、飛鳥君!?」

今までした事のないようなキスに、私はつい飛鳥君の胸を向こうへ押しやり、離れる。顔がとても熱くて、何を考えて何を話せばいいのか、全く頭が回らない。

「ももちゃん、今日こそは……もう少し先に進んでもいいよね? 僕たちの関係……」
「も、もう少し先……? で、でも私、どうしたら良いのか分からないし、恥ずかしいし……」
「……」

じっと射るようにこちらを見つめる飛鳥君の視線に堪えられず、私は彼の視線から逃げるように俯いた。

「……」
「……」

「そんな風に恥ずかしがるももちゃんも可愛い〜ッ」

ちょっと悪い事を言ってしまったかなと思った矢先だった。飛鳥君はさらにこちらとの距離を詰め、そのまましっかりと私を包み込むように抱きしめた。

「きゃあっ! と、突然抱きついてくるのはやめてー!」

彼の腕の中でジタバタともがくと、飛鳥君はさらに私を強く抱きしめる。飛鳥君の匂いが体中に染み込んでいくようで、気恥ずかしいが心地好い。

私は次第に飛鳥君へ抵抗する力を弱めて行った。


「ふふっ、真っ赤になってるももちゃんも可愛いけど、でも……」
「……ひゃっ!」

飛鳥君の穏やかな声に油断していた私は、次の瞬間彼にそのまま後ろへ押し倒されてしまった。

飛鳥君の茶色の髪の毛がふわりと揺れ、私の頬を掠める。見上げたすぐ先には飛鳥君の顔があり、少しでも動くと鼻先同士がぶつかってしまいそうだ。
飛鳥君は私をじっと見つめ、口の端を上げて笑った。

飛鳥君の瞳の中に私が見える。
しんと静まり返った室内は、私たちの呼吸音をさらに鮮明にさせた。



「明かり、消そうか?」
「へ? な、なんで?」
「え? つけたままでもいいの?」
「だ、だから、どうして明かりを消すの?」
「ももちゃんはつけたままでも恥ずかしくないんだ?」
「え? だっていつも明かりつけたままで……キ、キス、してるじゃない」
「……キス?」
「うん……。本当はまだキスだってちょっと恥ずかしいけど、飛鳥君にこれ以上気を遣わせちゃ悪いし、これでもいくらかは慣れたつもり、なんだよ……」

「……」

「あ、飛鳥君?」
「……も〜っ! ももちゃんが可愛いから今日はキスだけでも許す!」
「へ? キスだけでも? どういう事?」
「いいの! それはおいおい教えてあげる!」
「きゃあっ! 飛鳥君くすぐったい!」

飛鳥君はまだ良く理解できていない私をぎゅうぎゅうと抱きしめ、そのままベッドの上をゴロゴロと転がった。



「メリークリスマス、もも」

飛鳥君にいつもとは違う声色でそう耳元で囁かれると、私の顔はさらに熱くなっていくのだった。





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