その日、久しぶりに丸一日デートができると連絡してきたのはれいちゃんの方なのに、わたしはこの状況が全く理解できない。

わたしがれいちゃんと呼ぶその彼は、現在売れないアイドルをしながら早乙女学園で後進の指導をしているわたしの恋人である。名を寿嶺二と言い、優しくて楽しい、わたしには申し分のない恋人だ。

れいちゃんから連絡が来て、わたしは急いで彼の部屋へ向かった。
いつものようにドアを開け、れいちゃんに飛び付いてやろう。そう思っていたのだが、わたしは彼の部屋のドアを開けてすぐに固まってしまう事になる。

そこにはれいちゃんの他に、二人の青年がこちらを向いてわたしと同じように固まっていた。
赤髪の青年は終始人当たりの良さそうな顔でわたしとれいちゃんを交互に見つめている。れいちゃんは彼を一十木音也くんと紹介した。もう一方の黒髪の青年は一ノ瀬トキヤくんといい、とても呆れた様子でわたしとれいちゃんを見つめている。彼らは今駆け出しのアイドルで、現在れいちゃんが指導に当たっている二人の生徒だった。

彼らがここに居るという事は、もしかしてれいちゃんは今、仕事中だったりするのだろうか。

「れ、れいちゃん……。もしかして今日、お仕事だった? ごめんね、わたし早とちりしちゃって……」

れいちゃんに会えるという気持ちだけで突っ走って来たが、もしやわたしは日時を勘違いしていたのではないだろうか。そう不安げにれいちゃんを見上げると、彼は顔色ひとつ変えず、大丈夫だと言って笑った。


「え……。ど、どういう事?」

訝しむわたしにその顔を近付け、あろうことかれいちゃんが彼らの前でわたしに唇を重ねる。

「おおーっ! レイちゃんすげー! オトナー!」
「……はぁ」

音也くんとトキヤくんの表情はまさに正反対で、頬を上気させて喜ぶ音也くんの後ろで、トキヤくんは眉間に指をあてながら迷惑そうにため息を吐いていた。

「れっ……れいちゃん! なんで……」

れいちゃんはほんの少しわたしから体を離すと、得意気に笑い、くるりと彼らの方を向いた。

「どうだい? 僕たちの愛、君たちにも伝わったかい?」
「うんうん! レイちゃんとももちゃんの愛、すげーよ!」
「……」

一人感動する音也くんの髪の毛を、感激に身を包んだれいちゃんがわしゃわしゃと撫でる。音也くんはれいちゃんに可愛がってもらう事が嬉しくてたまらないのか、はち切れんばかりの笑顔をれいちゃんに振り撒いていた。
なんだかわたしは、たまらなく音也くんが羨ましくなった。





「……えっ?」

不意にわたしの頭に誰かの手が乗せられた。
その主を探すように顔を動かす。そこには困ったような表情のまま、わたしの頭を撫でるトキヤくんの姿があった。

「え……、ト、トキヤくんどうしたの?」
「いえ。ももさんが音也を羨ましそうに見ていたので、私が寿さんの代わりにあなたを撫でてあげました」
「え……!? あ、ありがとうございます……」

顔から火が出そうな程恥ずかしいが、わたしはどうしても彼の手を振り払う事はできなかった。


「んん? こ、こらーっ! トッキー何してんの!? だめだめだめだよ〜! ももは僕のなんだから、手を出しちゃだめでしょー!?」
「私は別に手を出した訳ではありません」
「いーや、出してたでしょ!? なれなれしくももの頭をなでなでして……! トッキーは超男前なんだから、女の子にやたら優しくしたらダメ!」
「……どんな理屈ですか」

わたしとトキヤくんのやり取りに気付いたれいちゃんは急いでこちらへ来ると、わたしをトキヤくんから離し、自分の腕の中へと引っ張った。
わたしから遠ざかって行くトキヤくんは、捲し立てるれいちゃんに相当呆れているようだった。確かにれいちゃんの理屈はわたしにもよく分からない。



「そもそもれいちゃんは、どうして今日わたしを呼んだの?」
「うん。今日はね、僕の後輩ちゃんたちにオトナの恋愛というものを教えてあげようと思ってももを呼んだんだ。つまり、今日のデートはトッキーとおとやんも一緒ってわけ! いいよね?」
「いいよねって……この雰囲気で嫌だなんて言えないよ……」
「良かった! さっすが僕の彼女だね〜!」

れいちゃんは本当に調子が良い。そんな所も好きなのだけど、わたしはそれを表立って言ってあげない事にしている。そうでないとれいちゃんはさらに調子に乗って大失敗をしでかしそうで怖いのだ。



「それじゃあオトナカップルな僕らに、質問コ〜ナ〜!」
「おおーっ!」
「……」
「……」

れいちゃんが突然変なコーナーを始めた。
終始テンションの高いれいちゃんと音也くんに、わたしとトキヤくんはなかなか付いて行けず、黙り込む。

「レイちゃん、早速しつもーん!」

戸惑うわたしたちを余所に、れいちゃんと音也くんは二人だけで話を進めていった。れいちゃんと音也くんは色々な意味で似ているから、それが増長しあって暴走しないかがとても心配だ。

「よーし、じゃあおとやん! 何でも聞いてみて!」
「はーい! じゃあさじゃあさ、レイちゃんとももちゃんはもうエッチとかし放題な仲ですかー?」
「な……!」
「お、音也! あなたは何て事を……!」

驚いたのは、わたしとトキヤくんだけだった。
まさか突然こんな質問がくるとは思わなかったのはもちろんだが、わたしは更に、それに答えようとしているれいちゃんにも驚いた。

「うん、イイ質問だね。僕とももは大人同士なカップルだし、まぁ、確かにエッチし放題だね〜。ね? もも?」
「えっ……。し、知らないよ!」

突然話の矛先を自分に向けられ、どうにも恥ずかしくなったわたしは、熱くなる顔を隠すように逸らしながらそう吐き捨てた。


「レイちゃん、もうひとつ質問!」
「おお! おとやん、僕たちに興味シンシン? よし、いいぞ! 何でも聞いて!」

先ほどの質問の余韻が消えぬうちに、再び音也くんがれいちゃんに質問を投げかける。れいちゃんはまたも答える気満々らしい。

「レイちゃんとももちゃんは、いつもどんな体位でヤッてるの?」
「!」
「お、音也!」

れいちゃんに質問する音也くんは無邪気そのもので、悪意など一切見受けられないから尚更困る。顔を真っ赤にして音也くんを睨んでいるトキヤくんを見て、わたしも釣られるように更に顔が熱くなった。

「どんなって言われてもなぁ……」

今まで饒舌だったれいちゃんが、困ったように首を傾げた。そりゃあそうだろう。こんな質問をされれば誰だって答えにくいに決まっている。

しかし、そう思っていたのはこの室内でわたしとトキヤくんだけだった事を、わたしはその後思い知る事になる。



「うーん、僕一人じゃ再現しづらいし……」

れいちゃんがそう呟き、わざとらしくわたしの方へ視線を寄越す。

「……」

ああ、これは嫌な予感がする。

「もも、ちょっとおいで」

れいちゃんが何かを企むような表情でわたしに手を伸ばす。さらに嫌な予感が胸を過ったわたしは、慌てて首を横に振った。

「どうしたの? 僕は先輩として、おとやんの質問に答えてあげなくちゃいけないんだ。それにはももの協力が不可欠なんだ。……だから、おいで」

わたしがさらに首を振り後退ると、不意に横からトキヤくんが口を挟んだ。

「寿さん、ももさんに何をさせるつもりですか?」

トキヤくんのそれが意外だったのか、れいちゃんと音也くんが驚いて彼の方を見つめている。

「……トッキーが他人に興味を示すなんてめずらしくない?」
「ほんとだ……。もしかしてトキヤもももちゃんのエッチに興味シンシン?」

真剣に問い質すトキヤくんに、またしてもれいちゃんと音也くんがズレた答えを彼に返す。

「違います! 私はただ、ももさんまでもを巻き込んで、何をするつもりなのかと問い質しているだけです!」

トキヤくんは、疲れたようにこめかみを押さえ、盛大にため息を吐いていた。
れいちゃんと音也くんの最強タッグは誰にも止められないのだなと改めて感じた瞬間だった。



「もも、僕と昨夜挑戦した体位の再現をしよう。もちろん服は着たままでいいから」

わたしたちが一通り落ち着くと、れいちゃんがそう言って再びわたしに手を伸ばした。
何だか聞いてはならないような事を聞いてしまったような気がして、わたしは首を傾げながられいちゃんに聞き返す。
それでもれいちゃんはいつもの笑顔を崩さず、無言のままわたしの腕を捕らえ、そして引っ張った。

「れ、れいちゃん!?」
「まずは無難に正常位からだったよね!」
「へー! で、次は!?」
「ああ、次はももが上になって、騎乗位だったかな」
「おおー! ももちゃん、腰動かしてみて、腰!」

気が付けばわたしはれいちゃんに組み敷かれ、そしていつの間にかれいちゃんの上に乗せられていた。音也くんの揶揄に気付いた時には、恥ずかしくて恥ずかしくて顔から火が出そうだった。


「いい加減にしてください。ももさんを巻き込んで、一体何の講釈ですか寿さん!」
「……トッキー、やけにももを庇うね……。やっぱりトッキーはももの事……」
「ち、違うと言っているじゃないですか! 下衆な詮索は止してください!」

れいちゃんの上でオロオロしていたわたしに助け船を出してくれたトキヤくんが、れいちゃんにあらぬ疑いをかけられ狼狽している。ついにれいちゃんの先輩根性は室内の全員を巻き込んでしまったのだった。



「もも、トッキーが格好いいのは分かるけど、浮気……しちゃだめだよ?」
「し、しません! だから……もう離して」
「いいじゃないか。ももは僕のって二人に見せ付けておかないと、手を出されたら困るし」
「れ、れいちゃん心配しすぎ! わたしに手を出すのなんて、れいちゃんくらいだよ!」
「いいや、そんなことない」

れいちゃんがにっこりと笑い、体を起こす。そういえば今の今まで忘れていたけれど、れいちゃんだって立派なアイドルで、その笑顔の破壊力は半端ではないのだ。

わたしがうっとりとその笑顔に見とれていると、れいちゃんが音也くんに向かって一言呟いた。


「最後はこれ! 対面座位ね。僕、この体位好きなんだよね! なんせもものおっぱいが揺れてるのを目の前で見れるから!」
「……っ!」






「いひゃいいひゃい! ごめ……はなひへ……」

れいちゃんの両頬を思い切り横へ引っ張り、明日テレビにも出られない程の痕を付けてやる。
自分の恋人ながら、恥ずかしい事を堂々と後輩へ教えてしまう彼に、わたしは今、教育的指導を行なっている。彼の調子の良さは一生直りそうもないが、わたしはどうしてもそうせずには居れなかった。

れいちゃんの頬を摘まむわたしの手の力は、ますます強くなっていくのだった。




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