先ほどまでシンと静まり返っていたスリザリンの談話室が、不意に賑やかになった。クィディッチの練習に行っていた選手と、それを見物していた生徒たちが一斉に戻って来たのだ。

私は暖炉の前の大きなソファに座り、参考書を広げながらその様子を眺める。談話室に戻って来た生徒たちは、すぐにそれぞれの自室へと散らばって行った。

スリザリンのシーカーを務めるドラコが戻って来たのはそれからすぐの事だった。
いつものように取り巻きを周囲にはべらせながらこちらに歩いて来たドラコは、当然のように私の隣へドサリと座った。私を見て得意気に笑い、距離を詰める。
パンジーがすぐにドラコの向こう隣に座り、彼にタオルを差し出した。
相変わらず彼女はとてもドラコに献身的で、女の私としては見習いたい箇所が多々ある。実践できていないのは言うまでもないが。

「ドラコ、今日は大活躍だったわね」
「ま、まぁな」

パンジーがドラコの功績を褒め称えると、彼はまんざらでもなさそうに表情を緩めながらこちらを向いた。チラチラと私に視線を合わせてくるその様は、おそらく今日の活躍を聞いて欲しいという合図に違いなかった。


「……ドラコ、今日は大活躍だったの?」
「ん? もも、僕の活躍が気になるのか?」

ドラコが口の端を上げて笑い、体ごと私の方を向く。まだ汗が残っているらしく、彼のプラチナブロンドの髪の毛が僅かに額へ貼り付いていた。
相変わらず綺麗な金色だなぁと関係のない事を考えていると、ドラコはぼんやりしている私を怪訝そうに眺め、ため息を吐いた。

「まぁ、クィディッチのルールも分からないももに僕の活躍を話しても無駄だと思うけどな」

おそらくぼんやりしていた私がクィディッチに興味を示さなかったものだから呆れてしまったのかもしれない。確かに私はそれほどクィディッチには興味も無いし、そう言われても仕方がないかもしれない。だが、ドラコの活躍だけは別物だ。正直、その活躍の内容はとても聞きたかったのだが、それほどまでに呆れられると、それ以上聞き返す事もできなかった。

パンジーがドラコにタオルを貸したまま席を立った。私は広げていた参考書をパラパラと捲り、テーブルの上に置いていたペットボトルのジュースを飲み込んだ。

「……」

ふと横を見ると、ドラコがこちらをじっと見つめていた。チラチラと私とジュースを交互に眺め、目が合うと途端に顔を赤くする。

「……もしかして、飲みたいの?」
「そ、そんなはずないだろう!」
「そ、そう?」

私がさらにごくごくと喉を鳴らしてジュースを飲むと、それと比例するようにドラコの顔がどんどん歪んで行く。なんだか面白くなってきたが、やはり少し心が痛む。

「やっぱり飲みたいんでしょ? 間接キスになっちゃうけど、飲む?」
「だ、だから! 僕は別に、飲みたいなんて思ってない!」

明らかにイントネーションがおかしくなっており、動揺している様が伺える。彼の青白い肌は僅かに紅潮していた。
私はペットボトルをドラコに差し出し、無理矢理それを押し付ける。ドラコは困惑しながらも、ゆっくりとそれを受け取った。
彼はじっとそのジュースを眺め、しばらく考え込んでいたようだったが、とうとう顔を真っ赤にさせながらそれを口に運んだ。

半分ほど残っていたジュースは全て彼の喉の奥へと消えて行った。

私が笑顔でその様子を見つめていると、それに気付いたドラコは眉間に深く皺を寄せ、口をへの字に曲げた。

「な、何だ! 何を見てる? い、言っておくが、僕は別にジュースが飲みたかった訳でも、ももと間接的にキスをしたかった訳でもないからな!」

彼のお決まりのセリフに、私もいつものセリフで言い返す。

「はいはい。分かってるわ」

ドラコはそれを聞くと満足そうに頷き、分かっていればいいんだと偉そうに呟いた。




end


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