※美風藍のキャラは捏造です。管理人が雑誌情報だけで書いたものなので、おかしい所も多々あると思います。(2012/02/28現在)
そこはどうか寛大な目で見ていただけると嬉しいです。
※これはトキヤ夢「−5kg」の続きです。






「君、中岡ももだよね? 無謀なダイエットしてるってほんと?」
「ん?」

いつものようにわたしが学食でトキヤ推奨のベジタブルサンドを食べていた時の事だった。
後ろからそう声をかけられ振り向くと、そこには淡いグリーンの髪の色をした少年がこちらを見下ろしながら立っていた。とても綺麗な顔立ちをしており、すぐに彼が今人気絶頂のアイドルだと気が付く。

「あ! あ、えーと、あい! 美風藍だ!」
「本人を目の前に呼び捨てるな、この馬鹿」

その瞬間、ポカリ、と気安く頭を小突かれた。
確かに今のはわたしが悪い。頭を擦りながら素直にごめんなさいと頭を下げると、彼はようやく深く刻まれていた眉間の皺を和らげてくれた。


「と、ところで美風様、なぜわたしがダイエットをしているとご存知なのですか?」

平身低頭で美風様にそう訊ねると、彼はわたしの隣の椅子に座り、そこにあったわたしのリンゴジュースを無断で飲み干した。少し驚いたが、ジュースを飲まれたくらいでわたしはもう口答えなどしない。口答えなどしたところで事態が改善される事は先ずない。それはトキヤとの事でじゅうぶん学習済みなのだ。
偉いぞ自分。そう心の中で自分を褒めて悦に入っていると、隣から突然大きなため息が聞こえた。それは明らかに美風様から発せられたものだった。

「君、馬鹿でしょ?」
「え……」

突然何を言うのかと思えば、美風様はとても呆れたような表情で、空になったコップをテーブルにトントンと叩きつけた。

「ももはダイエット中でしょ? なんでこんな甘ったるいジュースなんか飲んでるの? だいたいごはんとジュースって組み合わせが非常識なんだけど」

テレビで見るよりも恐ろしく毒舌な美風様に、こんなレタスしか挟まれていないサンドイッチを食べているわたしの身にもなれと言いたくて仕方なかったが、何とか堪え、愛想笑いをする。もちろんその後、わたしの作った懸命の笑顔は無視される事になる。


「君、HAYATO……じゃなくて、トキヤを見返したいんだよね?」
「え? は、はい、まぁ」
「君、今のままじゃ、ブタまっしぐらだよ」
「そ、そんな!」
「早乙女学園は養豚場への斡旋はしてないよ?」
「う……なんとなく既視感を覚えます、その言葉……」
「……まぁ、本当にやる気があるなら、僕がダイエットのサポートしてあげてもいいけど」
「……えっ!?」

一体美風様にこんな事を教え込んだのはどこのどいつだ。わたしのダイエットなど、美風様には一切関係ないはずなのに、彼はなぜかすでにヤル気満々で、そのエネルギーを発散させるが如く、残っていたわたしのベジタブルサンドを全て食べ尽くしてしまった。わたしの昼食が、この小悪魔にほとんど奪われてしまった訳だが、今はそれどころではない。トキヤのサポートですら耐えられそうもない今、さらにサディスティックさに磨きがかかっていそうな美風様がサポートするだなんて、絶対に耐えられないに決まっている。面倒な事になる前に、しっかり丁重にお断りしなくては。

「ちょ、ちょっと待ってください! 美風様は今お忙しい身では……?」
「いいんだ。もうすぐ僕は……」
「死ぬんですか!?」

ポカリ、とまた殴られた。どうやら美風様は女子供にも手を出す事を躊躇わないタイプのようだ。
恐ろしい程美しい顔を歪ませ、美風様は再び呆れたようにため息を吐いた。

「君、ダイエット云々の前に、その軽口をなんとかした方がいいんじゃない?」
「す……すみません……」

重々しくため息を吐いた美風様がさらに続ける。

「僕はこの春からここで講師をする事になってるから、これから偵察ついでに君のサポートをしてあげると言ってるんだよ。あくまで"ついで"だから、僕が君に好意を持ってるんじゃないかなんて勘違いはしないようにね」
「は、はぁ……」

なぜか彼のサポートを受けることが決定的になってしまったわたしは、残念な気持ちで肩を落とした。それに構う事なく美風様がスッと立ち上がり、わたしを見下ろして口を開く。

「とりあえず君はまだまだ重量オーバーだから、これから一週間、一日1000kcal以上摂取しないように」
「ええっ!?」
「一週間後また来るから、その時体重が減ってなかったら、断食に入るからね」
「だ、断食……!?」

サッと真っ青になったわたしを楽しそうに見下ろし、美風様が笑う。

「もし君が断食期間に入っても、僕は平気で君の隣でハンバーグとか食べちゃうからね。それが嫌なら死ぬ気でやる事」
「は、はい……」

美風様はそう言い残すと、とても満足そうに笑い、颯爽と学食を出て行ったのだった。




「なんだあれ……。今わたしに何があった? 隣に美風藍が居たような気もするけど……」

その光景があまりにも現実離れしていて、わたしは先ほどの出来事が白昼夢だったのではないかと疑った。しかし、目の前から忽然と消えたリンゴジュースとベジタブルサンドがそれを現実だと証明する。

「やっぱり夢じゃなかったのか……」
「もも」

おそらく美風藍が立ち去って五分もしない間に、よく聞き慣れた声がわたしの後ろから聞こえた。

「トキヤ!」

それは紛れも無く強制ダイエットをするはめになった要因、トキヤだった。相変わらず爽やかなイケメン面をしながらこちらへ近付いて来て、わたしはその顔を視界に入れるだけで、なぜだか彼がとても憎らしくなった。

「どうでした? 彼のサポートは」

トキヤは笑いを堪えるようにそう言うと、先ほどまで美風藍が座っていた隣の椅子に腰を下ろした。

「ちょっとトキヤ、彼のサポートって……もしかして……美風藍がわたしをサポートするとかいう話は……」
「ええ、私が話をつけておきました。彼とは良く仕事で一緒になるので、その時、事情を話したら快くもものダイエットを手伝ってくれると申し出てくれたのです。良かったですね」
「よっ、良くねーよ!!」
「もも、女性がそんな乱暴な口を聞いてはいけません」
「んむっ……」

口答えを許さないトキヤが笑顔のままわたしの唇を摘まみ、思い切り引っ張る。

「いだいいだい唇が千切れる!」

いつもの彼らしく本当に容赦がない。トキヤも美風藍も、女の子に優しくするという気持ちは無いのだろうか。
そんなことを考えつつわたしがじたばたと苦しみ悶える姿を見て、トキヤはとても楽しそうに笑った。


「や、痩せたら……トキヤを絶対足蹴にしてやる!」
「はいはい。その日を楽しみに待っていますね」
「くっ……!」

わたしはほとんど美風藍が食べてしまったベジタブルサンドの空き皿とコップを持ち、トキヤに背を向け歩き出した。






「君、もしかしてももが好きなの?」
「そんなこと、美風さんには関係ないと思いますが」
「ふぅん。まぁいいや。これでしばらく退屈しなそうだし」
「私がお願いしたのはダイエットのサポートだけです。くれぐれも手は出さないでくださいね」
「……」

某テレビ局の片隅で、トキヤと美風藍がこんな会話をしていた事を、わたしは知らない。



おわり

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