「なんで私がロキさんのイタズラ道具を作らなくちゃいけないんですか……」
「しょーがないじゃん、ももちーがオレとの勝負に負けたんだしィ〜♪」

先ほど私とロキで行ったオセロゲームは、盤面のほとんどが、真っ黒になるという凄惨な結果に終わった。
もちろん私の大敗ではあるが、ロキの初心者だからという言葉にまんまと乗せられ、彼の言葉のままに勝負をしてしまったのがほんのり悔しい。

「そもそもロキさん、本当にオセロ初めてだったんですか?」

彼のイタズラ道具らしきものを作るため、不器用ながらも手を動かし、ずっと心の中にあった疑問をようやく口にする。私にはロキがオセロ初心者とは到底思えなかったのだ。
しかしそれを聞いたロキはいっしゅん呆然としたものの、すぐにいつもの顔付きに戻り、歯を見せて笑った。

「うん、初めてだよォ? オセロ。…………まァ、知識としては、知ってたんだけどねェ〜♪」
「……そ、それ、初心者じゃないじゃないですか!」
「あはは、初めてだってばァ〜、実際にオセロするのは☆」
「……」

ロキは嘘を吐くのがとても上手い。
ロキ曰く、嘘を吐く時は信憑性を高めるために、本当の事を何割か織り混ぜて話すらしいので、彼の話はどれが本当なのかさっぱり分からない。
自他共に嘘つきを吹聴する彼だから、今さらそれを糾弾するつもりはさらさらないが、なんだかとても悔しい気持ちになる。



ロキの指示通り、瓶に詰められた飴玉を一つ取り、それをカラフルなセロファンに包んでいく。見た目は普通のキャンディそのものだが、一体これは何の道具なのだろうか。詳細を全く知らされぬままの手作業は、時間が経てば経つほど不安さが増していく。
もしもこれかバルドルやアポロンを困らせてしまうための道具だと考えると、自然と手の動きも遅くなってしまうのだった。



「ちょっとちょっとォ〜、ももちー、手が止まってるよォ〜?」
「……」
「なァに〜? オレと居るのに、考え事ォ〜?」

ロキが手に持っていた飴玉を一つ口に含むと、楽しそうにそれをコロコロと舌で転がした。

「何考えてんの? ももちー」
「ひっ!」

今まで目の前にいたはずのロキがいつの間にか私の後ろへ回っており、そこから私を羽交い締めにするかのように抱きしめていた。耳にかかる彼の吐息で身体中の血液が逆流するかのような錯覚に陥る。

「……ねェ、正直に言いなよ? なーに考えてたの?」

彼が言葉を発する度にぞくぞくと鳥肌が立つ。
私は我慢できず手足をじたばたさせるが、ロキの腕が私から離れる事は決してなかった。

「もしかしてももちー、オレと共謀してイタズラ道具作って誰かに迷惑かけちゃったらどーしよー、とか考えてる?」
「えっ!?」

まるで私の心中を察したかのようなロキの指摘に思わず声が裏返る。すると彼はそれが楽しくなったのか、私の肩に顎を乗せ、頬擦りをするように自分の頬を私のそれへ押し当てた。

「やっぱり☆ ももちーってイイコ過ぎるもんねェ〜♪」
「そ、そんなことは……」
「そんならさァ〜、ももちーがこのキャンディにどんな効果があるか、試してみれば〜?」
「へ……?」
「はい、これ、アーゲル☆」
「ん、んんっ……!」

ロキの手が私の頬に当てられ、唇で唇を塞がれる。
そして次の瞬間、私の口内に彼の舐めていた飴玉がコロンと移された。
口の中で小さな爆発が起こる。
パチッ、という静電気にも似たその音は、私の心音を徐々に高めていった。




「どう? オレを見て、何か感じない?」
「……何か、ですか?」
「そっ☆ 例えばァ〜、急激にオレに抱いて欲しい〜って思ったりィ〜、身体中が疼いてたまらなくなったりィ〜?」
「は……、はいぃ!? ど、どういう事ですか、抱いて欲しいとか身体中が疼くとか……。このキャンディには一体何の効果があるんですか!?」

慌てる私に構う事なくロキが私にくっついたまま、のんきに鼻歌などを歌っている。
ロキに飴玉の成分など一切知らされていないため、私は彼の言動にオロオロさせられるばかりだ。イタズラ好きなロキの事だ。絶対に妙なものに違いはなさそうだ。

「う〜ん……、ももちーにはまだ効果が現れないのかなァ〜? おっかしーなァ……」
「ん、んーっ!」

さらに物騒な事を言い出すロキの言葉に不信感が募り、私はその飴玉を吐き出そうとする。
しかし、ロキは私の口を自分の手で塞ぎ、更に私を強く抱きしめた。
ロキの甘い香りが頻りに鼻を掠めた。



「あれェ? ももちー、心拍数上がってきたんじゃな〜い?」
「ひゃ、ひゃあっ!?」

突然ロキが私の左胸を鷲掴む。
それはあまりにも突然の事で、私は思わず大声を上げ、それと同時に心臓が跳ね上がった。自分で自分の心音が耳に響く程だから、きっとロキにも背中越しに伝わっている事だろう。

「ねェ〜、ももちー、ついにオレに惚れちゃった?」
「な、なっ……」
「だって、こーんなにももちーの心臓がドキドキしてるしィ〜♪」
「そ、そそそ、それは! それはロキさんがずっと私を抱きしめているせいです!」
「えェ〜? そ〜なのォ? ニヒヒッ☆ ももちーってばカーワイイ♪」

私を強く抱きしめるロキの手を外そうと何度も何度も試みるが、細身の彼からは到底想像できないような力でそれを拒む。もうどうすることもできない。ロキが飽きるまで、おそらく私はこのままなのだろう。


「っていうか……教えてください、この飴玉には一体何の効果があるんですか」

ほんの少し呆れたように体の力を抜く。そしてロキに再度問い質すと、彼は微かに笑い、私の耳に口を寄せた。

「効果も何も、コレ、ただのキャンディだしィ〜、ほんとはももちーとチューしたかったから嘘付いただけだしィ〜♪」
「なっ……!」

ロキのストレートなネタばらしに、私はそれ以上反論できず、ただ口をパクパクさせるしかなかったのだった。




「と、とりあえず離れてください! ただのキャンディなら、ちゃんと全部作りますから」
「えェ〜、もう離れなきゃいけないのォ〜?」

ロキの手を私から離そうと必死に説得しようとするが、彼は全くそれを聞こうとしない。

「じゃあさァ、ももちーへの罰ゲーム、変えていい?」
「……は、はい?」

それどころかロキは相変わらず自分のペースで私に口を開く。

「ももちーの新たなる罰ゲームはァ〜……、オレとこのまま部活動が終わるまで、ずーっと密着してることォ〜♪」
「え……えええええっ!?!?」

私の驚愕には目もくれず、彼はさらに自分のポケットから綺麗な色の飴玉を取り出し、そしてすぐにそれを口に含んだ。

「まぁまぁ、そんなイヤがらなくてもいーじゃん♪ ほらほらァ、レインボー味のキャンディを口移しで食べさせてアゲルからっ☆」
「い、いえ、それは……っ、むぐっ」

ロキが私の返答も聞かず、強引に口付ける。彼の口内にあったレインボー味の飴玉が私の口へ移された。
目の前のロキは、とても楽しそうな顔をしていた。




「……あ、あの、この状況、いつまで続くんですか?」
「部活動が終わるまでって言ったでショ?」

私たち以外誰もいない室内で、私は先ほどからずっとロキと密着したまま彼の鼻歌を聞いている。
一体いつまでこうしていれば良いのだろうか。


「……ええと、部活動って、いつ終わるんですか?」
「ん〜……今日はトールちんが来るまで、かなァ?」
「……トールさん早く来てください!」

私の微かな呟きに、ロキはわざとらしく忘れてたけど、と付け足した。

「そういえばさっきトールちんに会った時、今日の帰宅部はお休みって言っちった☆ トールちん呼ぶなら、テレパシーでも使って呼んでねェ〜♪」
「え……えっ……、ロ、ロキさんの嘘つきー!」




その日ロキが私を解放したのは、消灯時間が差し迫った頃、見回りに来たトトが私たちを見つけた時だった。
トトには二人揃って説教を受けたが、彼の厳罰と称するゲンコツをロキがまとめて二発受けてくれた事には驚いた。
なんだかんだ言いながらも優しいロキに、私は確実にこれからも惹かれ続けていくに違いない。





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ソラ様、企画に参加してくださってありがとうございました!
いつものようなロキを楽しく書かせていただきました。ご希望に添えていれば嬉しいです。
今回は本当にありがとうございました。


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