(この話は、「だ、だだだだだ、大好き」の続きになっております。)





思いがけず北欧の神様三人(柱)から詰め寄られた翌日、またしても事件は起こった。


「……おはよう、ももさん」
「……」
「ももさん? 寝起きの君も、可愛らしいね」
「な……」
「さ、そろそろ起きよう? 着替えはわたしが手伝ってあげるからね」
「なっ……!」
「……ももさん?」
「な、なな、なんでっ! なんでバルドルさんが私のベッドの中にいるんですか!?」

朝、目が覚めると目の前にバルドルの顔があった。
相変わらず眉目秀麗で思わずほんの少し見とれてしまった訳だが、のんきにぼんやりしている暇はない。なにせ件の神様の一人が私のベッドの中に潜り込んでいたのだから。


昨夜、確かに私は寝る前にしっかりと施錠した。それは間違いない。しかし彼はそれすらも掻い潜り目の前にいる。私はこの現実をなかなか受け入れる事ができなかった。





「ももちー、どーしたのォ? 朝から元気だねェ……って、バルドル!? なんでバルドルがももちーのベッドの中にいるわけェ!?」
「バルドル、お前……」

私が目の前のバルドルに驚いている間にロキとトールが次々と顔を出した。正直揃いも揃った彼らの顔を見るとまた面倒な事になりそうだなとは思ったが、来てしまったものは仕方がない。私は半ば覚悟を決め、パジャマのままベッドから体を起こした。

「なになに、バルドルとももちー、同じベッドに入ってナニしてたのさ〜? まさか……エッチな事じゃないよねっ☆」
「そ、そそ、そんなはずないじゃないですか……!」

そんな事実などあるはずがない事はロキが一番良く分かっているだろうに、彼は何かと事を大袈裟にしたそうにそう話す。
私はすぐに違うと頭を振ったが、それを見てにやにや笑っているロキがほんの少し憎らしかった。

そもそもロキもトールもバルドルがここに居る事にだいぶ驚いていたようだったが、それはむしろ私の方が問い質したい事だった。

「ええと……言いたい事はたくさんあるのですが、まずバルドルさん、なぜ私のベッドの中にいるんですか……?」
「なに言ってるの? そんなの、わたしとももさんがひとつになるために決まってるでしょう?」
「え……」

バルドルは彼を訝しむ私の詰問に対し、全く取り繕う様子もなくその理由を口にした。
普通ならばこういう事態に遭遇すれば何かと誤魔化したりするものだと思うのだが、彼はそれすらもしない。さすが光の神様というかなんというか、とにかく器のキャパシティが格段に違う事は良く分かった。が、問題発言は問題発言である。

「あの……、それってもしかして……私の寝込みを……って事ですか?」
「そうだね、確かにそうなってしまうかもしれない。でもね、誤解しないでほしい。わたしとももさんは早く既成事実を作ってしまわないといけないんだよ」
「え……? ………………いやいや、何でそうなるんですか! 言ってる意味が良く分かりません」

バルドルの最もらしい言い訳に思わず丸め込まれそうになったが、なんとか理性でそれを制す。
バルドルの言い分は、私のような平凡な人間には全く理解できるはずのないものであり、それを理解しろと言われても明らかに無理である。更に彼の斜め上の回答は、起きたばかりの私を疲弊させるのにじゅうぶんだった。

「バルドルさん、その、いくらそういう事をしたい盛りだからといって、こういうのは不味いです……」

それらを踏まえ、改めて彼に優しく諭すと、バルドルは途端に眉を下げ、とてつもなく寂しそうな表情で私を見下ろした。
余談ではあるが、私は彼のこういう表情にとてつもなく弱い。

「……だって、あなたはとても魅力的だから、のんびりしていたらロキやトールにあなたを取られてしまうかもしれないじゃない……」
「……」

なるほど、だからバルドルは昨夜一人で私の部屋へ忍び込んで来たという訳か。
とりあえずバルドルの考えは分かったが、それならば尚更私は彼のこの思考をどうにかして根底から変えねばならない。やや天然な確信犯を更正させるのはひどく憂鬱だが仕方ない。
私は知らず知らずのうちにため息が口からこぼれ落ちていた。


「ちょっとちょっとォ〜、バルドルがその気なら、オレにだって考えがあるかんね☆」
「え」
「なにそれ、どういうこと、ロキ!?」

バルドルにどう言えば通じるのかと試行錯誤考えていたその時、稀代のトリックスターこと稀代のトラブルメーカーロキが私とバルドルの間に突然割り入った。イタズラっぽくウィンクを飛ばし、私の肩を気安く抱き寄せる。
私はこの時点で、自力でこの事態を収拾することは不可能なのだと悟った。


私の肩に回されたロキの手を、バルドルが笑顔で振り払う。二人の間には、普段からは到底考えられぬ程険悪な雰囲気が漂っていた。

「ロキ、わたしの婚約者(予定)に気安く触らないでもらえるかな?」
「はァ〜? ももちーはオレの嫁(予定)なんだけどォ〜♪」
「違うよ! ももさんはわたしのものだよ!」
「えェ〜? ももちーはオレのだってば〜☆」

明らかにロキに遊ばれているであろうバルドルが少々可哀想に思えたが、ここで私が一方に肩入れすれば、ますます事態がこじれる事になるので口を挟むのは止めておく。



「ロキ」

数秒の沈黙を破り、バルドルがロキに口を開く。
彼の言葉の端々にほんのり棘があるような気もしたが、ロキもトールも素知らぬふりで受け流していたため、私も彼らに倣った。

「早く教えてよ。さっき言ってたロキの考えって、どういうことなの?」

なぜか焦りの色を見せるバルドルに促され、ロキが不敵に笑った。

「ニヒヒッ☆ そうだなァ〜、じゃあオレ、バルドルからももちーを守るために、今日からももちーと一緒のベッドで寝よっかなァ〜♪」
「なっ!?」
「だ、だめだよロキ! 彼女のベッドに潜り込むなんて!」

ロキのふざけた提案に、私は思わず間の抜けた声を出してしまうが、それと同時にバルドルがロキへ反駁した。
ロキの提案と同じような事を既にしでかしている彼の言葉に説得力はないような気もするが、それがロキにとって抑止力になるならば、それはそれで良いと思った。

「えェ〜? なんで〜? なんでダメなのォ〜?」
「だって……だって……! それじゃあ、わたしがももさんと既成事実を作っている間、同じベッドにいるロキはどうするの?」

てっきり自分の事を棚に上げてでもロキの事を諌めてくれるとばかり思っていたのだが、彼がロキを諌めた理由は、やはり私の意思を慮ってのことではなさそうだった。
彼らの次元の違う会話に少々目眩がしそうだ。


「あ、あのー……、バルドルさん?」
「んー、そうだなァ、隣で二人の行為を見てるか……どうせだからオレも混ざっちゃおっかなァ〜☆」
「ちょっ……」
「それは良いけど、ももさんの初めてはわたしが貰うからね!」
「うん、いいよォ? オレはそーゆーの、気にしないからっ♪」
「分かったよ。なら、今日からももさんの部屋へ行く時は、ロキも誘うね」
「オッケ〜♪」
「え……ちょ、ま、待って待って、待ってください! 私の意思を無視してそれはおかしいですから! そもそもお二人の思考がどうかしているレベルでおかしいですから! ……ト、トールさん、二人を何とかしてください!」

今まで彼らを傍観していたトールに望みを託そうと彼の腕を両手で掴む。

「……バルドル、俺も今日から支度しておくから、ももの部屋へ出かける時は声をかけてくれないか」
「……ト、トールさん? あ、あれ? 北欧唯一の良心のはずのトールさんから不適切な一言が聞こえたような気が……」

ロキとバルドルの不穏な会話を納めてもらうべくトールに助けを求めるが、それもあえなく撃沈してしまった。

北欧の神様たちは皆どうかしているのではなかろうか。

「えェ〜? トールちんも参加するのォ〜?」
「当たり前だ。ロキやバルドルにばかりももを独占させるのも癪だしな」
「トール、言っておくけど、ももさんの初めては……」
「分かってる。俺は最後でいい」
「ならよーし☆ だねっ!」

この一連の会話の突っ込み所はどこだろうか。
いや、そもそもこの破廉恥極まりない会話のどれから突っ込めば良いのだろう。
やや暴走ぎみに進行していく彼らの会話は、進行すればするほど現実味のないものへと変わっていく。そろそろ本気で何とかしなければ。


「じゃあ、今日は夕飯が終わったらまたももさんの部屋へ来よう。……あ、ももさん、わたしたち、先に自分の部屋でシャワー浴びて来たほうがいかな?」
「は……、え?」
「だから、シャワーだよォ。ニンゲンって、エロォ〜イ事する時、お互いシャワーを浴びるんでしょォ〜?」
「……」

先日も思った事だが、彼らが人間に興味を持ってくれたのは良いけれど、なにぶん人間に対しての知識が偏り過ぎている。

「もも、良ければ、俺が体を洗ってやろうか?」
「うわ〜! トールちん、さっすがムッツリ〜♪」
「じゃあ面倒だし、みんなでお風呂に入ろうか!」
「さ〜んせ〜!」


「あ、あの……」


「そうと決まったら、わたしは早速勝負下着とか言うものを用意しなくちゃ!」
「オレはメンドーだから、何も付けないで来よ〜っと☆」
「……俺はもものために下着でも用意するか」

「ちょ、ちょっと、みなさん……」

「それじゃあももさん、また夜に!」
「オレ、ももちーに天国見せてア、ゲ、ル☆ 楽しみにしててねェ〜♪」
「……じゃあな」

「あ……ちょっと……」

結局彼らはなぜか三人結託して会話を終了させた後、爽やかな笑顔で私の部屋から出て行った。

今晩、彼らは必ずやって来るだろう。
とりあえず私は、放課後までに避難場所を探す必要があるようだ。






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続くかもしれませんが、おそらく続けば18禁だろうな……。・゜゜(ノД`)


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