「お〜そ〜い〜にゃ〜」
「……」

ハヤトはリビングに戻って来たわたしを捕まえ、自分の足の間にすっぽり収めると、当然のように後ろからぎゅっと抱きしめた。わたしの肩に顎を乗せ、寂しかったにゃと言ってそのまま頬にキスをする。
わたしは腰に回されたハヤトの手を強く握った。

「……ももちゃん? どうしたの? またトキヤに何か言われた?」
「……うん」
「えっ!? ほんとにまた何か言われたの!? ごめんにゃ?」

慌てるハヤトの手がわたしの頭を優しく撫でる。

「ごめんにゃ……。トキヤにはボクから言っとくから、許してにゃ……」
「あ、いや、違」
「あ、そうだ! お詫びのちゅーしてあげる!」
「え!? だから違、ちょっ、んっ」

ハヤトがわたしを膝に乗せ、強引に唇を重ねてくる。食むように下唇を吸い、そしてゆっくりと舌でわたしの唇をこじ開ける。あまり認めたくはないが、ハヤトのキスは逃れられない程気持ちがいい。

チュッというリップノイズが響き、ハヤトがわたしから離れる。既にわたしの頬は上気しており、まともにハヤトを見ることさえできない。それでも尚笑顔でわたしに顔を近付ける小悪魔に、わたしは悔しさと恥ずかしさのあまり、ゴツンと一発お見舞いしてやった。





「殴ることないにゃー! ももちゃんのオニー! でもももちゃんの場合は虎柄のビキニを着た可愛いオニー!」
「……なにそれ」

よく分からないハヤトの文句を一蹴し、わたしは彼と距離を取ってソファへ座り直した。

「だいたいわたし、トキヤくんに文句言われたなんて言ってないでしょ?」
「え? 違うの?」
「ちがーう」
「……じゃあ何て言われたの?」
「……わたしのこと、嫌いじゃないって」

わたしがわざと意地悪くトキヤくんのセリフの一部分を取り上げてそう言うと、ハヤトは予想通り慌ててわたしの隣に距離を詰め、先程よりも強くわたしの体を抱きしめた。

「だからボク、ももちゃんをトキヤに紹介したくなかったんだ!」
「え?」
「トキヤがめずらしくボクの恋人を見たいって言うから、仕方なくももちゃんを紹介したけど……ボクたち双子だし……やっぱりトキヤもももちゃんを好きになっちゃったんだ!」

ハヤトは捨てないで捨てないでとわたしの首筋に顔を埋める。ちょっと意地悪をしすぎてしまったようだ。


「ごめんハヤト」
「や、やだよボク! ももちゃんと別れるなんて嫌だからにゃー!!」
「だから違うの」
「……ぐすっ」
「な、泣いてるの!? ごめん、ほんとにごめんハヤト! トキヤくんに言われたのは、もしわたしがトキヤくんの姉になる予定なら歓迎します、みたいな事を言われただけ!」
「……」


わたしの肩でその言い訳を聞いたハヤトが潤んだ瞳のまま顔を上げた。母性本能をくすぐるその顔は、本当にわたしを罪悪感で苛む。

「ほんと? ほんとにそう言われただけ?」
「うん……」
「じゃあボクとトキヤ、どっちが好き?」
「そんなの……ハヤトに決まってるでしょ」

ハヤトの子供じみた質問にそう返すと、ハヤトは途端に笑顔になり、わたしをソファへ押し倒す。目尻の涙の跡がまるで嘘みたいにそこへ存在していた。


「ももちゃんももちゃん。ボク、ももちゃんとの子供が欲しい」
「へ?」
「子供!」
「っ!」

そう言ってわたしのシャツを捲り上げるトップアイドルを、わたしは必死に食い止める。こうなったハヤトを止めるのは、なかなか骨だ。

「初めての子供はももちゃんそっくりの可愛い女の子がいいにゃー」
「だ、だめ! い、今はだめだよ! ハヤトはアイドルなんだから、そういうのはアイドルを引退したあとでしょ!」

なんとか冷静になってもらえるようにハヤトの髪の毛をそっと撫でると、ハヤトは少ししゅんとしたようにわたしの上で項垂れる。可哀想かもしれないが、現役のトップアイドルが彼女持ちどころか子持ちなんて知れたら大変な事になる。

「ボクは早くももちゃんと結婚したいのににゃぁ……」
「わ、わたしだってそうだけど……」
「まぁ仕方ないか……今は」

そう何とか諦めてくれたかと思ったのも束の間、彼はすぐにポケットからよく見慣れたゴムを出し、そしてとびきりのアイドルスマイルをわたしに向けた。

「今日はこれで、我慢するにゃ」

ああやっぱり、このまま終わる訳はなかったのだ。
とても嬉しそうにわたしの上で服を脱ぎ出すハヤトを見て、わたしは盛大にため息を吐き、そしてついには彼に体を任せたのだった。




おわり



 


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