unlimited




改築された新しい部屋は思いの外快適で、非の打ち所など全くなかった。新しくなったシステムキッチンもバスルームも、使い勝手が良くて部屋の中に居るのが前よりも数段楽しくなった。

わたしの作曲ペースも着実に上がってきており、それもこれも全てトキヤと真斗くんのおかげだと感謝している。
今日も順調に新曲の打ち合わせが終わり、定刻通りに寮へ戻って来る事ができた。部屋の前で鞄から部屋の鍵を取り出す。久しぶりにコンビニで買ったお弁当の入った袋が、ドアにガタンと打ち付けられた。
鍵を開け、中に入ると、自然とただいまという言葉が口を衝いた。誰も居ない空間に投げ掛けられた言葉は、いつも呆気なく空へ消える。しかし。


「おかえりなさい、さくら」
「おかえり」

意外にも今日はその言葉を受け止めてくれる相手が居た。

「……」
「どうしたんですか。いつも以上に間の抜けた顔をして」
「や……、な、なんでトキヤと真斗くんがわたしの部屋に……どうやって入っ」

わたしが全て言い終える前に、トキヤと真斗くんの手にはわたしの部屋の物と思しき鍵が掲げられた。

「スペアキーを作っておきました」
「えっ!? ちょっ、待って、なんでそんな」

またしても全て言い終える前に、トキヤと真斗くんがこちらへ近寄り、わたしの手のひらに鍵を二つ乗せた。両方とも形が微妙に違うようだ。

「これは……」
「こちらは私の部屋の鍵です」
「こっちは俺のだ」
「これで、フェアですね?」
「……い、いや、そういう問題、なの?」

突然の展開に付いて行けないわたしの頭は、すでに容量オーバーの警鐘を鳴らしていた。頭をぶんぶんと振り、どうにかこの状況を理解しようと試みるが、あまり上手くいかない。

「とにかく、私の婚約者に何かあると困りますし、それに私が急にムラムラし出してさくらと性交渉したくなった時も、鍵がないと何かとやっかいですから」
「ん……? さ、さらっとやらしい事を言うな!」
「俺も、急に寂しくなる時もあるだろうし、それに、さくらに踏んでもらいたくなった時に鍵がないと不便だしな」
「い、いや、踏まないよ? わたし……」

まるでいつもの日常が帰って来たかのようなやりとりに、嬉しいのか泣きたいのか良く分からない感情がわたしの胸中を支配していく。
わたしはこんなに弱い人間だっただろうか。たった数ヶ月二人と暮らし、ただ元に戻っただけなのに、わたしは知らず知らずのうちにずいぶん人恋しくなっていたようだ。

彼らはそんなわたしと向き合い、柔らかく微笑んだ。


「これからも私たちと、朝食を一緒に食べませんか?」
「できれば、夕食もな」

暖かい陽射しのような彼らの笑顔に、わたしは迷うことなく力強くうなずいた。





おわり





後書き

ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。
最初から最後はハッピーエンドで、と決めていたのですが、果たして他の方から見てもハッピーエンドで終われたのかと不安だったりします。主人公がもう少ししっかり地に足が着くまでトキヤとの結婚は延期になりましたが、トキヤも真斗もそんな不安定な主人公を良く見放さずにずっと見守ってくれていたなぁと感心するばかりです。
真斗もトキヤも根が優しい人なので、意外にもそういう真面目なシーンを書いている時がとても楽しかったです。
表現力は全く無いですが、また季節や行事に合わせ、番外なども書いていけたらなと思っています。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


2012/03/04 にゃもこ



1/1
←|→

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -