しばらくすると、ST☆RISHが司会者とトークをする番になり、スタジオ内の歓声が一段と大きくなった。音也くんが司会者の隣に座り、その左側に神宮寺くん、翔くんが続く。そしてその後ろの一段高い椅子にトキヤと真斗くん、那月くんが並んで座っていた。

「ST☆RISHのみなさん毎日忙しいみたいですね。今、休みなんてあるんですか?」

司会者の早速の問いかけに音也くんが笑顔で答える。

「俺たち、ここんとこずっと休み無しだったんですけど、今度久しぶりに連休が貰えるんですよ!」

相変わらず音也くんの笑顔は見る人を元気にする万能薬のようだ。スタジオ内がざわめいている。時々観客席から音也くんを呼ぶファンの声が聞こえた。

「それじゃあみなさんは、連休に何をして過ごしたいですか?」

黄色い声が鎮まった隙に司会者がまた質問を挟んだ。それに促されるように、連休の予定を音也くんから順に答えて行く。

「俺は翔とサッカーしたり、あとは撮り溜めておいた映画とか観てゆっくりしたいですねー」
「俺はまぁ、色々と。連休でも予定はいっぱい入ってるんで……」「俺は実家に帰るつもりです。弟にも両親にも心配かけてばっかだから……」

音也くんと神宮寺くん、それに翔くんが答え終えると、今度はトキヤがマイクを手に取った。トキヤは答える前に恐ろしい程妖艶な笑みを浮かべた。観客席の女の子どころか、彼らと一緒に出演中の女性アイドルでさえ、トキヤの笑顔に顔を赤くしている。普段なかなか見せる事のないその笑顔に、わたしは僅かに眉を顰めた。少しはわたしにもその笑顔を向けて欲しい、なんて思った事は心の中にそっとしまい込んでおく。

「そうですね、久しぶりの休日ですし、私は自宅で休息を取ります。幸い家には私の可愛いペットもいますし、退屈しないと思いますから」

ペット。それはもしかしなくともわたしの事だろうか。ぶんぶんと頭を振り、それを否定しようとも、受け入れられない自分の思考を呪いたい。

「今晩、首輪とリードでも買って行ってあげましょうか」


「……じょ、冗談に聞こえない! トキヤの場合、本当に買って来そうだわ!」

テレビの中のトキヤに反論するわたしの声が虚しく室内に響く。そんなわたしの反応とは逆に、トキヤの受け答えは意外にも万人受けしたようで、番組は滞りなく進行していた。
しかしその和気あいあいとした雰囲気も、ほんの一瞬で、すぐに終わりを告げる事になる。

「待て一ノ瀬。そのペットは俺のものだ。手を出す事は許さん」

真斗くんがマイクを握って言った一言に、場内の空気が少しずつ冷めて行くのが分かった。

「な、何を言うのです、真斗」
「一ノ瀬、アレは俺のものだからな!」
「……いいえ、違います。私のものです」
「いいや、俺のだ!」
「ま、真斗くん、落ち着きましょうよぉ……トキヤくんも抑えてくださぁい……」

二人が言い合いに発展しそうになるのを那月くんが必死に止める。わたしはテレビの前でどうすることもできず、ただそれを見守るしかできなかった。額に嫌な汗を感じる。
生放送だと言うのに、全く収拾がつきそうもない。トキヤと真斗くんが言い合いを始めると、周りの人間はなかなかそれを止められない。本当に厄介だ。

「……ええと、お二人に可愛がってもらえて、そのペットも幸せでしょうねぇ。それではそろそろ時間ですので、スタンバイをお願いします」

そのうちどうにもならない事が分かると、司会者はとうとう彼らにスタンバイを促してしまった。メンバーの他の四人はトキヤと真斗くんを半分呆れたように見つめながら席を立ち、スタンバイへと向かうのだった。


CM明けに始まったST☆RISHの新曲は、先ほどまでの雰囲気をも一瞬で払拭するような明るい曲だった。場内もすっかりST☆RISH一色で、安心したわたしはヘナヘナとその場にくずおれてしまった。間接的にではあるが、わたしがあの場の空気を悪くしてしまったようで、正直気が気ではなかったのだ。
とりあえずST☆RISHの出番が無事に終わり、わたしはひどく安心した。






その日の深夜、わたしは彼らが帰って来るのをリビングで待ち構えていた。もちろんそれは今日のメールとソングステーションでのトーク内容に、一言文句を言ってやるためだ。

「ただいま帰りました……おや?」
「どうした一ノ瀬。早く入れ」
「ええ。でも中からチェーンロックが」
「なに!?」

わたしの掛けたチェーンロックに立ち往生している彼らの声を確認すると、わたしはすぐに玄関へと向かった。


「おかえりなさい、ご、主、人、様!」

思い切り皮肉を込め、ペット目線の挨拶をすると、なぜか彼らは反省するどころか頬を上気させて喜んだ。

「さくら、それをメイド服を着ながらもう一度言ってくれ! それが無理ならば裸にエプロンでも」
「真斗くんは黙っててね」
「え……あ、ああ」

ようやくわたしの怒りを感知してくれたのか、真斗くんが顔を引きつらせながら一歩後退する。

「さくら、ようやく目覚めてくれたのですね。ご褒美に、ちゃんと首輪とリード、買ってきましたからね」

トキヤの手には近所のペットショップの袋が掲げられている。よりにもよって近所で買ってくるなんてと頭を抱える。取り越し苦労かもしれないが、もうペットショップの前を真顔で通る事ができそうもない。

「とにかく早くロックを外してください。私たちが帰って来たのですから、不審者が現れても平気ですよ?」
「いや、このロックは不審者対策じゃなく、トキヤと真斗くん対策ですから!」
「……意味が分かりませんが」

わたしがいつまでたっても外さないこのロックをおかしく思った二人がロックを外せとせがむが、まだわたしの気持ちは収まらない。

「わたしにはまだ言いたい事がたくさんあるの。メールの事とかソングステーションでのトークの事とか!」
「ああ。私にも言いたい事があります」
「え?」

さぁこれからいつもの反撃を開始するぞという時だった。わたしの思惑に反してトキヤが同時に口を開く。

「な、なに?」
「ええ。さくらはメールで私の裸を見ておいて、返信も寄越しませんでしたよね? その間、私の裸を見ながら一体何をしていたんですか?」
「なっ!」

トキヤがわざと大きな声で変な事を言い、口の端を上げる。思わずわたしは反射的にドアから手を出し、彼の口を塞いだ。
その瞬間、待ち構えていたと言わんばかりのトキヤに腕を掴まれる。

「捕まえましたよさくら。もっとすごい事を言われたくなかったら、早くロックを外した方が君のためですよ?」
「うっ……」




結局わたしはトキヤに負け、チェーンロックを外し彼らを中に入れてしまった。しかしやはり悔しい。

「ところでさくら、私の半裸画像を待ち受け画面に設定してくれましたか?」
「え!? ……ま、まさか! あんな画像を待ち受けにしてたら、誰かに見られた時、変態だと思われるでしょ」
「失礼な事を言いますねさくら。もし私がさくらの半裸画像を待ち受けにしていて、それが誰かに見つかったとしても、私は全く気にしませんよ」
「それ、わたしが気にするから! っていうかトキヤも気にしろ!」
「俺も気にしないぞ、さくら」
「ま、真斗くんまで……」

この二人の思考回路が日に日にエスカレートしているような気がするのは気のせいではないように思う。
これから一体どうしたら良いのだろう。そう思いながらわたしは、ソファの上で頭を抱えながらため息を吐くのだった。





つづく
 

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