私は冬に16歳を迎えると共に鯉伴さんのお嫁さんになった。
毎日が心満たされて、すごく楽しい。
でも、困った事が一つ有る。


今日も手を繋ぎながら一緒に散歩に出かけた。
3月なのだけど、もうすぐ春なのか、風がふんわりと暖かい。
空は薄く赤に染まっている。
たわいない事を話しながら歩いていたのだが、ふと鯉伴さんの横に靡かせている髪がとても長い事に気付く。

「鯉伴さん、髪、触っていい?」
「あぁ。構わねぇぜ」

私は右手を伸ばし、横に靡いている黒髪に触れる。
すごく柔らかくて手触りが良い。
そして一本一本の髪が細い。
私とは大違いだ。
うらやましいな、と思いながらも長く伸びた髪を目測してみた。
50cm以上はあるかもしれない。

三つ編みしたら横に靡いて不自然だけど、ポニーテールにすると似合うかも。

そう思っていると鯉伴さんが私の方を不思議そうに見た。

「響華。何考えてんだい?」
「ん。柔らかいな、って思ってたの」

鯉伴さんはフッと笑うと私の横髪を一房持ちあげ、口付けた。

「響華の髪の方が綺麗だぜ…? 良い匂いもするしな。食っちまいてぇや」
「鯉伴さん!?」
私の髪は食べ物じゃないです!

目を丸くしていると「冗談だ」と頭にぽんと手を置かれる。
それにホッとしていると突然頭を抱え込まれ、額にキスをされた。

「う、え!?」

恥ずかしくて頬が真っ赤になる。
そんな私を面白そうに見ながら鯉伴さんは口を開いた。

「こっちの方が美味そうだ…」
え? こっちって、どっち!?

意味が判らず、頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くす。
と、鯉伴さんは私の頬に手を添えた。

「こっちだ…」
「ん……っ」

そう言うと、鯉伴さんは私の唇を塞いだ。
そしてそのまま深く口付けられる。
舌が絡められきつく吸われるとジンとした心地良いものが身体中に広がった。
そんな自分が恥ずかしい。
私は鯉伴さんの背中をギュッと掴みながら、心の中で叫んだ。

鯉伴さんっ、ここ、街の中の公道――っ!

「ん……気にすんじゃねぇや…」

気にします!

何故か今日も公の場所で、キスされている私だった。







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