今日は、リクオ君の家で勉強会だ。
1学期の期末で数学のみ悲惨な結果を出してしまったので、見かねたリクオ君が勉強会を提案してくれたのだ。
持つべきは、数学の出来る友達!
ありがとう、リクオ君!
ホクホクしながら奴良家に向かっていると、小さな公園の中でブランコに腰かけている小柄な老人の姿があった。
それは横長頭のお爺さん。
どう見ても『ぬらりひょんの孫』に出て来る、リクオ君のお爺さん。妖怪ぬらりひょんだった。
「ぬ……じゃなくて、リクオ君のお爺さん!」
思わず声を上げると、ぬらりひょんはこちらを向き、ニッと綺麗に並んだ歯を見せて笑った。
「おう、雷獣んとこの娘じゃねーか」
あれ?私の事、知ってる?なんで?
私はぬらりひょんに近付くと、「こんにちは」と頭を下げ、次に首を傾げた。
「お爺さん。なんで、私が雷獣の娘だって、知ってるんですか?」
「ワシゃ、何でも知っとるぞい?」
腕を組みながら、ニッと笑うぬらりひょん。
その笑みが、他の秘密まで知られているようで、ゾクリとする。
一番の秘密は、私が晴明戦までの出来事を知っていると言う事だ。
いや、誰にも話してないし、絶対知られてないハズ!
と自分に言い聞かせていると、ふいに別の事を尋ねて来た。
「ところでリクオと付き合っとるってーのは、本当かい?」
「は?」
付き合ってる?
……。うん。竹刀で付き合ってる、っていうベタな勘違いはしない。
きっと、人差し指でつつき合ったかどうか、って事だ。多分。
でも、つつき合った事なんかあったっけ?
私は眉を顰めながら、うーん? と首を捻った。
そんな私にぬらりひょんさんは呆れたような顔で口を開いた。
「嬢ちゃん。ワシが聞いとるのは恋人同士になったんか、てぇ事じゃぞ?」
「恋人同士ー!?」
な、な、な!?
顔に熱が籠る。
「と、友達ですっ!」
「そうかい? リクオはそう思ってねぇみたいじゃけどのう…」
「いやいやいや、お爺さんの勘違いです!」
どきっぱり言い放つと、ぬらりひょんはニヤニヤ笑いつつ自分の顎を撫ぜた。
「しかし、悪い気はしねぇじゃろ?」
「悪い気……って」
「ふはっ、自分の気持ちにも気付いてねぇのかい?」
自分の気持ち?
……、心の底では、リクオ君の事が大好きだ。
でも、友達以上の関係になる事は無い。
それは、原作通りの事柄が起こる事で証明されている。
だから……
「運命は決まってるんです」
眉を八の字にしつつも、私は言葉を紡いだ。
「リクオ君が本当に好きになる相手は私じゃない」
私の言葉にぬらりひょんは、器用に片眉を上げた。
「妙な事を言う嬢ちゃんじゃのう」
「あはは、聞き流して下さい。じゃあ、もう行きます」
苦笑いをすると、私は一つ礼をして、踵を返した。
そして、奴良家へと急いだ。
頬をペチペチと叩き、落ち込んだ心を浮上させながら。
だから、公園を去った後、ぬらりひょんが面白そうにある事を呟いたのを私は知らなかった。
「嬢ちゃんも男心を判ってないのー。よし。ワシが一肌脱いでやるとするかのう」
それ以降、何故か奴良家に招かれることが多くなった。
END
(おまけ)その後の奴良家での勉強会
「舞香ちゃん。ここはこうすると意味が良く判るよ」
「あ。ホントだ。でも、この計算するの面倒……。抜かしていい?」
「ダメだってば。ホラ、この計算式を使えば簡単だよ?」
「え?なんで、この計算式?」
「この計算式の意味はね……」
「「あ」」
近付き過ぎた為か、鉛筆を持った手と手が微かに触れ合う。
な、なんだか、恥ずかしいっ!
私は、真っ赤になった顔がリクオ君に気付かれないように片手で隠しながら、ジュースを飲んだ。
なので、リクオ君も私と同じように赤くなっている事に気付かなかった。