3人で、元の世界に帰るとそこは冬だった。
人間の姿に戻ると夏の制服を着ていた所為で、寒さに震えた。

早く炬燵に入りたい。

お母さんと天也お兄さんは、用事があるらしくすぐに家を出て行った。
私は元の世界に帰って来たのに安堵しつつ、私服に着替え炬燵に入る。
暖かいなー。今夜の晩御飯は何がいいかなぁ、とつらつら考えていると、ベランダに面したガラスサッシをコンコンと叩く音が聞こえて来た。

もしかして、リクオ君?

私は立ち上がりカーテンを開ける。
するとガラスサッシに寄り掛かるようにして佇んでいる夜の姿のリクオ君があった。
その切れ長の目は、切なげに私を見ていた。
リクオ君に会えて心の中に喜びが溢れて来る。

「リクオ君!」

私は急いでガラスサッシを開ける。

「寒くない?中に入って炬燵で温まって」
「響華」

苦し気に絞り出すような声に ん?と首を傾げる。

「オレの事、愛想が尽きちまったのか……?」
「え!?」

なんで突然そんな事言い出すの!?
大好き。すごく大好きなのに!

「響華。怖がらねぇでくれ……。オレは一番響華を大事にしてぇ……」
「リクオ君……」

何があったんだろう?

私はそっとリクオ君の頬に片手を伸ばす。
触れるとすごく冷たい。

いつからここに立っていたの?

「リクオ君。すごく冷えてるよ。このままだと風邪ひいちゃう!」

リクオ君は、そっと壊れ物を扱うように私の手を握ると目を閉じた。

「あったけぇ……」
リクオ君……

何故かその言葉に胸が苦しくなり、リクオ君の胸に頭をぽすんとくっつけた。

「響華?オレが怖かったんじゃねぇのか?」
「なんで?怖くないよ?……もしかして、何かあった?」
「今朝の事、覚えてねぇのか?」
「今朝……?」

と、朝の出来事で一番怖かった事を思い出してしまった。
突然唇を重ねて来た鯉伴さん。
その感触を思い出しただけでも、涙が出てきそうだった。

「……っ」

嫌、嫌だ。リクオ君しか触れて欲しくないっ!

「リクオ君っ…っ」

ぎゅっとリクオ君の胸元をきつく握りしめると、恐る恐る背中に腕が回される。

「……響華……」
「怖かったの。鯉伴さんが怖かったの!」
「……は?」


私は、リクオ君の暖かい腕の中で、とつとつと今朝の出来事を話した。

「……響華。響華のお袋さんか天也兄貴に連絡つけてくれねぇか?」
「うん」

天也お兄さんは、携帯を持ってるので遠くに居なかったら、連絡はつく。
でも、どうするんだろ?

不思議に思っていたら、リクオ君は私の身体をぎゅっと抱き締めながら、目を据わらせどこかを睨んだ。

「親父の野郎……、叩き斬ってやる!」
あの世界に行くの!?

吃驚していると、ふいとリクオ君はこちらを向く。

「その前に……、消毒だ」

リクオ君の顔が近づいて来たかと思ったら、冷たくなった唇が私の唇に重なった。
その暖かさと柔らかさに胸が熱くなる。
背中に回された腕に、ぎゅっと抱きしめられ、幸せな気持ちが身体中に満ちる。
私もそっとリクオ君の首に腕を回した。

大好き…! リクオ君……!

※おまけ※

ちゃぶ台の上に数本の徳利を並べたお母さんは、いつものようにお猪口を傾けていた。
私はお母さんの向かいに座ると、気になっていたことを切り出した。

「お母さん。あっちの世界で奴良組の人達から、私とリクオ君は兄妹だって聞かされたんだけど、本当?」

私の問いに、お母さんは面白そうに笑う。

「あんた、小さい頃も同じ勘違いしてたねぇ。兄妹なわけないだろう? あんたはれっきとした私とあいつの子だよ」
そうなんだ…
「良かった……。……、ん? お母さん、あいつって誰なの?」
話しの内容からして、私のお父さんの事だと思うけど…

首を傾げると、お母さんはまたお猪口をクイッと傾け、あっさりと言葉を続けた。

「あんたの父さんだよ。手の付けられない戦闘好きでねぇ。まったく、あいつがこの世界に生まれてなくて本当に良かったもんだよ」
「そうなんだ……この世界に生まれて無い、ってこの世界の人じゃないの!?」
「おや、言ってなかったかい?」
「言ってないよ!」
「かっはっはっはっ、まあ、あんたが神通力を自在に操れるようになったら、連れてってやるさ」
「もう!」
 
でも、お父さん、どこか遠い地域の人だと思ってたんだけど、違う世界の人だったんだ。
私ってただの半妖じゃなかったんだね……
でも、戦闘好き? もしかしてその所為で妖怪時戦闘好きになってるのー!?

思わぬ事実が発覚し、私は違う世界に居るお父さんの事をちょっぴり恨んだ。










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