思い立ったら即行動! と、私は部活を早目に切り上げ、玄関口から校門まで伸びたスロープを駆け下りた。
と、校門を抜けた所で車のクラクションが響き渡った。

ん?

クラクションが鳴った方向を見ると、歩道の脇にお父さんが車を停めて待っていた。

どしたんだろ?

車に駆け寄ると助手席側の窓が自動で開く。

「お父さん?」
「やあ、舞香。この頃物騒な事が続くから迎えに来たんだよ」
「迎えって……」

確か部室……じゃなくて、生徒会室を出たのは16時だ。
そして、お父さんの会社の退社時間は17時。

あれ?
「今日帰るの早かったんだ」
「ふふ。舞香の事が心配だったからね。さあ、早く乗りなさい」
「うん……」

返事を返し車のアウターハンドル(取っ手)に手を掛けたとたん、ハッとある疑いが唐突に浮かんだ。

そう言えば、カナちゃんに化けた妖怪も居た。
もしかしたら、目の前に居るお父さんも妖怪が化けてるかもしれない!

私は助手席のドアを開けるのを止め、眉を顰めながらお父さんを見た。
にこやかに微笑みを浮かべているお父さん。
偽物には見えない。
でも、もしかしたら……

「お父さん……。変な事聞くけど、お母さんの名前は?」
「?? 芙蓉だが、突然どうしたんだい?」

不思議そうな顔をして返事を返すお父さん。

でも、妖怪であるお母さんの名前は、同じ妖怪同士なら知ってるかもしれない。
……、これなら!

「あともう一つ!」
「?」
「奴良家の人達の事……、どう思う?」

偽物のカナちゃんは、ぬらりひょんさん一族の事を憎むべき敵だと言っていた。
目の前に居るお父さんも同じ事を口にしたら、偽物だ。
だって、本物のお父さんはお母さんに、ぬらりひょんさんの事悪く言うの咎めてた!

ゴクリと喉を鳴らしつつ、お父さんを見つめる。
するとお父さんは更に首を傾げながら口を開いた。

「奴良家の皆さんの事かい? 確か芙蓉と舞香が苦手にしていた方々だね。ボクは別に何も思っていないよ? 相手の良い所を知ろうとしないで一方的に悪しき様として言う事は悲しい事だからね」

諭すように言うその言葉に、私は、ほう、と胸を撫ぜおろした。

良かった! 本物のお父さんだ!

「あはは、ごめんなさい。」
「どうしたんだい? もしかして苦手意識を乗り越えたのかな?」
「あ、うん。そう! そんな感じ!」

私は真意を誤魔化しながら車に乗り込んだ。
そして、さっそくお願い事を口にした。
絶対に行かないワケにはいかない。

「あの、お父さん、ごめん! 奴良家に向かってくれないかな?」
「え? 奴良家かい?」
「うん。奴良君が今日休みだったから、お見舞いに行きたいんだ!」
「おや? 昨日の件でかい?」
「うんっ……、て、え?」

私、昨日戦っていた銀髪の妖怪が奴良リクオ君だって、お父さんに言ったっけ?
なんで、知ってるの?
お父さん?
もしかして、私と同じ世界からの転生者って事……、ないよね?
お母さんの話しだと、前世は僧侶だったって話しだし……。
でも、僧侶になる前に私と同じ世界から来てたら…?
まさか…、いや、そんな事あるハズないよ! 多分!
……でも…

奴良家に着くまでお父さんと別の話しをしながら、ぐるぐると考え続けた。


相変わらず奴良家の門は大きく、威圧感があった。
緊張する私を余所にお父さんは、チャイムを押す。
と、出て来たのは、首無さんだった。お父さんの丁寧な物腰に首無さんは、私とお父さんを門の中に入れてくれた。
そして玄関で出迎えてくれたのは、ニコニコ顔の奴良君のお母さん。若菜さんだった。
お父さんは若菜さんと挨拶を交わす。そして、すぐに若菜さんは奴良君の部屋に通してくれた。
私だけを。
お父さんはぬらりひょんさんに用事があるから、と別行動になったのだ。

「リクオー! 舞香ちゃんがお見舞いに来てくれたわよー!」
「うえ!? 有永さん!?」
「わわっ、若菜様!? すいません!」

障子を開けるとそこには、包帯まみれの奴良リクオ君を押し倒す氷麗ちゃんの姿があった。

えーっと?








- ナノ -