休む時間がたった1時間くらいしか無かったのだけど、私は一応ベッドに横になった。
すると様々な事柄が頭の中に蘇って来る。
カナちゃんに化けた妖怪の事。羽衣狐の元に居るはずの鏖地蔵が私に洗脳を施した事。
そして、奴良リクオ君にあらぬ恨みを抱いていた事。

「奴良君、私の態度がなんでトゲトゲしいんだろ?って思ったんだろうな……。くーっ、私のバカバカバカ!」

枕をボスボス叩くと、ポフンッと頭を埋める。

最低だ。
好きな人に、そんな風に思われるなんて……っ!

と、ふいに夜リクオ君が薬を持って来てくれた事を思い出した。

「って、私、あの時確か……」

確か、確か、確か、意趣返しに……「ほっぺにキ、キス……っ」

ボボボッと顔から火が吹くほど、熱くなる。

どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!
なんであんな事したんだろ! 私ー!

オロオロするが、更に重要な事を思い出した。
暴走した間、夜リクオ君の肩に酷い傷を負わせてしまったのだ。
急に胸がズクズク痛みだした。
申し訳なくて仕方がない。

「奴良君に会って、謝らないと……」

好きな人を傷つけるなんて、本当に最低だ。
私に奴良リクオ君を好きになる資格なんてやっぱりないんだな……

「やっぱり、奴良君には、氷麗ちゃんが一番お似合いなんだ……」

すごく自分が情けなくて、涙がポロリと頬を伝った。


登校すると、奴良リクオ君は休みだった。

そうだよね。血がいっぱい出てたから……
ちゃんとご飯食べれてるかな?
熱とか出てないかな?
大丈夫、かな?

授業中や休み時間、ずっとぐるぐる奴良リクオ君の事を考えていると突然名前を呼ばれた。

「舞香ちゃん。朝から元気無いけど、どうしたの?」
「あ……」

顔を上げるとそこには首を傾げるカナちゃんが居た。
周りを見ると、クラスメイト達は皆、帰り支度をしている。
いつの間にか1日の授業が終わっていた。

「あ、あれ!? もう放課後!?」

目を見開きながら驚きの声を上げると、机の傍に立っていたカナちゃんは苦笑する。

「そうだよ。今日は生徒会室で部活だって」
「へ? 生徒会室?」

どうして?
清継君は生徒会の役員でもないのに?

首を傾げる私に、カナちゃんは答えをくれた。

「ほら、舞香ちゃんが腹痛で早退した日があったでしょ? あの日午後から生徒会役員の選挙だったの。それで清継君が生徒会長に当選しちゃったのよ」
「え?でも、清継君って1年生だよね? なんで生徒会選挙に出られるの?」
「うーん……私も良くわかんない」

常識外れだ。
もしかして、『ぬらりひょんの孫』の世界だから、なのかな?
いや、でも……

考え込んでる私にカナちゃんは話しを切り、笑顔で口を開いた。

「じゃあ、部活に行きましょ」
「う、ん……」

考えても判らないので、私もさっさと考えるのを放棄し、カナちゃんと並んで生徒会室に向かった。


ガラッと生徒会室の扉を開けると、真っ白に燃え尽きたような格好で椅子に座る清継君の姿が飛び込んで来た。
清継君はブツブツと何かを呟いている。
長机の上に座った巻さんと鳥居さんは、呆れた目でそんな清継君を見ていた。
島君は、困ったような表情をしながら少し離れながら清継君の様子を伺っている。

「清継君、どうしたの?」

カナちゃんが巻さんに尋ねると、巻さんは半眼で清継君を見ながら、呆れた声音で口を開いた。

「今日学校中で道楽街道に妖怪が出たって話題になってるっしょ? なのに、こいつってば妖怪見てないってさ」
「清継君なら、絶対道楽街道に行って妖怪の写真撮ってると思ったのに…。見たかったなぁ」

鳥居さんが言葉を続ける。

「すまない…。仕方なかったんだ……。自家用リムジンで向かったんだが、道が混んでて……くっ、もしかしたら主に会えたかもしれないのに……っ! 走って行けば良かった! だがしかぁし!」

清継君はガタンッと椅子を鳴らしながら勢い良く立ち上がった。

「ボクは二度と過ちを繰り返さない! そう! なぜならば、再び闇の主に会いたいからさ! 情報も多量に入って来ているし、再会の日も近いね! ふはははは! ケホッケホッカホッ」
「清継君、大丈夫っスか? 無理矢理笑うからむせるんッスよー」
「「「…………」」」

巻さんと鳥居さん。そしてカナちゃんは生暖かい視線を、島君から背中を撫ぜられている清継君に向けた。
そして3人で顔を突き合わせるとまずは巻さんが口を開いた。

「絶対会えないに千円」
「あ、私も会えないに千円!」

巻さんの言葉に、鳥居さんもはいはいっと手を上げて便乗する。
そんな2人を見てカナちゃんは眉を顰めた。

「2人共、清継君に悪いよ……」
「あ、じゃあ、家長は掛けねぇの?」

巻さんから尋ねられ、カナちゃんは真顔になり人差し指を立てる。

「会えないに千円」

結局、掛けるんだ……

心の中で苦笑していると、鳥居さんがこちらに視線を移した。

「有永さんは?」

ん? 私?

「私は……、んー、いつか会えるに千円」

原作を思い出しつつ答える。

そう。原作通りに事件が起こり続ければ、来年にある百物語組との戦いで、清継君は奴良君が夜リクオ君と同一人物だと言う事を知るハズ。
今まで原作と同じ出来事が起こって来たから、流れ的に未来も原作と同じ事が起きる確率が高い。

と、目を煌めかせた清継君にガシッと両手を握られた。

は?

「有永さんは、ボクを信じてくれるって判っていたよ! 流石、マイファミリーだね! さあ、主と会う為に妖怪談義をたっぷりとしようではないか!」
「妖怪談義……」
「島君! ボクのパソコンを!」
「はいっス!」

そして、様々な妖怪の話しを聞かされた。
聞いたことのない妖怪ばかり出て来る。
と、ふいに夜リクオ君の姿が脳裏に浮かんだ。
妖怪の総大将、ぬらりひょんの血を引いてる、奴良リクオ君。
胸が締め付けられるように痛くなる。

今もきっと寝込んでるんだ……

私はぐっと拳を握ると決意を固めた。

よしっ! 迷惑かけたから、嫌がられるかもしれないけど、お見舞い、行ってみよう!








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