ガシャンッという金網を掴むような音と共に、奴良リクオの声が上から降って来た。

「居た! 有永さん!」

今居る所は、学校のグラウンドよりも1メートル程段差がある。
奴良リクオはグラウンドと外部を隔てる目の大きい金網を両手で掴み、こちらを見下ろしていた。
見上げる私に、奴良リクオは慌てたように「有永さん、そこ動いちゃダメだよ!」と言い放つと、姿を消す。
多分、ここに通じる道から、私の元に辿り着くつもりなのだろう。

そう言えば、私って犬神と会う為に保健室抜け出したんだよね?

「うわっ、ここにどうして居るのか、追及される!?」

オロオロしていると、グラウンドの脇にある小道から奴良リクオが姿を現した。

「有永さん!」
「は、はい!」

思わずシャンと背筋を伸ばし、礼儀正しい返事を返してしまう。
そんな私を気にする事なく、奴良リクオは駆け寄って来た。
そして、私の両二の腕をグッと掴む。

「具合悪いのに、勝手に出歩いちゃダメじゃないか!」

私はその剣幕に目を瞠った。

なんで、怒ってるんだろ?

「どこも痛くない!?」

そして続く必死な言葉に、私は思わずコクコクと頷く。

「え、えっと……へ、平気かな?」
「本当に?」

念を押すように聞かれ、バカ正直に再びコクリと頷く。
と、自分の失敗に気付いた。

しまった! 私、お腹が痛かったんだっけ!?

「あ、あの!」

慌てて言いわけをしようとすると、何故か奴良リクオはホッとしたように笑った。

「良かったー。保健室に戻ったら有永さんが居ないんで、心配したよ」

その言葉に何故か罪悪感が襲って来た。
私は小さく首を振りそれを否定する。

奴良リクオは敵。
憎い敵。
そう、粛清しないといけない相手。

「それじゃあ、戻ろうか」

そのまま右手を握られた。
何故か心臓が大きく跳ね上がる。

なに、これ、……、何!?

狼狽する私に気付かず、奴良リクオは手を繋いだまま、校舎に向かって歩き出した。
私は意味の判らない身体の反応を取り敢えず無視する事にして、玉章に言われた事を再度思い返してみた。

仲間と認めて貰うには、奴良リクオを誑かさないといけない。そして、振る。

顔を上げチラッと目の前を歩く奴良リクオの背中を見る。

「………、ホント私に出来る?」

さっき頑張ろうと決意したのに、実際奴良リクオを前にすると、その気持ちが早くもグラつく。

と、言うか奴良リクオは私に誑かされてくれる?
いや、でも、玉章は奴良リクオが私の事好きって言ってたし…

ドクンと心臓が鳴り、何故か顔に熱が籠る。

いやいやいや、好きって、まさか、そんなハズないない!

ブルブルと首を振る。

どうやって、誑かすのかが問題。
でも……

顔に熱が籠り頭の中で色々な思考がグルグルする。
でも、答えは出ない。
と、前を行く奴良リクオが足をピタッと止め、こちらを振り返った。

「有永さん、どうしたの?」
「え?」

いつの間にか俯いていた顔を上げると、唐突に目の前がグルグル回る。

「あ、れ……?」
「有永さん!!」

そして意識が真っ白に塗り潰された。

なんで…?







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