今日もいつも通り学校に登校すると、私はカバンを机に掛け、そのまま席に着いた。
何気なく教室を見回すと、いつものように皆が好き勝手にざわめく中、奴良リクオは踵を伸ばし一生懸命黒板を消していた。その横で長い黒髪の少女が花瓶を両手で持ちながら、奴良リクオに向かって何か話し掛けていた。
それに時たま振り返り、何か答えている奴良リクオ。
毎日日直の仕事を手伝っている奴良リクオ。
ぬらりひょんの孫。お母さんの敵の孫。
覚醒して変身できるようになったら絶対、倒す!
敵意を込めて、じっと見ていると、突然耳元で名前を呼ばれた。
「舞香ちゃん!」
「わっ!?」
吃驚して右を向くとそこには、カナちゃんが居た。
「カナちゃん……?」
「やっとこっち見てくれたわね。おはよ、舞香ちゃん。どうしたの?」
「うっ。え、えっと、あの、ちょっと物想いに…」
「ふーん? じーっと前見ながら怖い顔してたけど……」
そう言いつつカナちゃんは前を向くと、数秒沈黙する。
そして唐突にバッと顔をこちらに向けると、ガシッと私の両肩を掴み顔を近付けた。
「舞香ちゃんっ! もしかして、あなたっ……!」
「ん?」
「リクオ君のことす……」
「おっはよー、カナ、舞香!」
「2人共どしたのー?」
カナちゃんが何か言い募ろうとすると、結構行動を共にする友達2人が現れた。
「ううん。なんでもない、なんでもない。2人共、おはよー!」
カナちゃんは私の肩から両手を放すと、2人の友達に首を振った。
しかし、2人の友達には通じなかった。
「あやしい」
「ねー。奴良の名前が聞こえたって事は……」
2人はにっと笑い合うと、1人はカナちゃんに1人は私の肩に腕を回した。
「さー、吐け! 恋話っしょ!」
「そーそー! 2人共、あいつの事好きだったり?」
「ち、違うわよっ! わ、私はっ!」
2人の攻撃にカナちゃんは真っ赤な顔をして必死に反論する。
顔を赤くしてる時点で説得力無いよ。カナちゃん。
でも……。私は敵である奴良リクオを好きになって欲しくない。
私は再び奴良リクオを睨みつけた。
すると、それに気付いた友達がニンマリと笑う。
「舞香ったら、目も離したくないほど奴良が好きなんだ?」
その言葉に何故か胸の奥が、ズクンと震えた。
しかし、それもすぐ敵意で塗り潰される。
「いや、その反対」
「このー、照れちゃって!」
反論したが、更に誤解された。そして散々2人に茶化される。
違う、と大声を張り上げたかったが、注目されるのが嫌なので、無言を通した。
全く。なんで、敵を好きにならなくちゃいけないの……。
そして3限目の数学の時間。カナちゃんの言葉通り、数日前あった小テストが返って来た。
見事な点数に思わず、現実逃避をしたくなる。
思い浮かぶのは、角を生やしたお母さんの姿。
「どーしよ……隠す、も出来ないし……。あ! 持って帰らなければいーんだ!」
ピコーンとナイスアイデアが閃く。しかし、別の危惧が頭に浮かんだ。
掃除の時間とかに机を運ばれるのだ。
何かの拍子に中身がバラまかれる可能性もある。
「誰かに見られる……」
点数の部分だけ折り曲げたプリントを持ったまま、机の上にへたり込んだ。
「むー。ほんとどーしよー……」
と、前触れもなくプリントが手からスッと抜き取られた。
「20点……」
ガバッと起き上がると、私のプリントを持ちながら眉を顰めたカナちゃんが居た。
その横にはそれを覗き込む奴良リクオが居る。
「ちょっ! 返し……」
と、プリントを奴良リクオに渡したカナちゃんが、私の両手を取りそっと握り締める。
「舞香ちゃん。大丈夫よ。今度、一緒に勉強しましょう?」
面食らう私に隣から奴良リクオが口を開く。
「ボクも手伝うよ」
いらないっ!
思い切りブンブンと首を横に振るけど、何を勘違いしたのかカナちゃんは困ったような顔を奴良リクオに向ける。
「舞香ちゃんの数学嫌いにも困っちゃうわ」
「はは……。数学面白いんだけどな」
「ちがーう!」
「「え?」」
と、背中に何か視線を感じ、バッと振り向くと後ろの出入り口に犬神の姿があった。
視線が一瞬交り合ったと思うと、スッと犬神の姿は消えた。
昨日のやり取りを思い出す。
「また来るぜよ」って言ってた犬神。
もしかして、私に会いに来た?
それにこんな時間に来るって事は、重要な話しがある?
私はそう考えると、顔を顰めながらお腹を押さえた。
「あ、いたたたたっ」
「え? 舞香ちゃん?」
「有永さんっ!?」
「お、お腹がすごく、いたっ……。ごめっ……、保健室に……」
「ボクが連れてくよ!」
その言葉に一瞬呆けてしまう。
「い、いや、自分で……」
「先生! 有永さんが具合悪いので、保健室連れてきます!」
「おー、奴良。頼んだぞ」
ちょ、ちょ、ちょ!
内心慌てる私に構わず、奴良リクオはひょいっと私の身体を横抱きに抱えると、教室を出て保健室を目指した。
どーしてこーなるの!?
私は泣きたくなった。