カナちゃんの誕生日から2日経った25日の朝。
いつも通り浮世絵町駅で電車を降り駅のホーム内を歩いていると、明らかに奇妙な集団が数メートル先を歩いていた。
まずは金に見える髪を首筋まで伸ばした着物姿の男性。そこまでは普通に見えるのだが、この男性はもうすぐ7月になろうとしているのに首に黒いマフラーを巻き、ワンレンズ型サングラスを掛けていた。ハッキリ言って着物姿にミスマッチなサングラス姿だ。
そしてその横に居る女性は、緩やかなウェーブの掛かった髪を後ろの高い位置で括っている。惜しげも無くナイスなボディを煌びやかなドレスに包みこませていた。胸のラインがクッキリ出せるドレスだ。腕にはフワフワした白い毛のついたストールを巻いている。
って、あの顔は、奴良家に訪問した時にお茶を出してくれたお姉さんだ。
そのお姉さんの横に居るのは、ストライプ生地のスーツに身を包み、長い黒髪を後ろで一くくりにしているお兄さん(?)だった。
この人もサラリーマン姿に長髪はミスマッチだ。
そんな奇抜と言うか奇妙な3人を引き連れ中心となり先頭を歩いているのは、夏の制服を着た奴良リクオ君だった。
奴良リクオ君の隣には、冬の制服を着、マフラーを巻いた氷麗ちゃん。
そしてそのすぐ後ろに、背が高く厳つい顔の男の人とヘッドホンをした小柄な少年が並んで歩いていた。
それはとても目立つ集団だった。
周りを歩く人達は、皆、ちょっと引き気味な表情をしながら、避けて通っている。
私もあの集団の中の奴良リクオ君に、声を掛ける勇気は無い。

奴良リクオ君……。よくあの中に居られるなぁ……
あ。それとも目立ってる事に気付いてないのかな?

そう思いつつも、あのお茶を出してくれたお姉さんが居ると言う事は、全員奴良組の妖怪なんだろうな、と言う事が推測出来た。
それに奴良リクオ君に付いて来ていると言う事は、きっと皆護衛なんだろう。

でも、なんであんなに護衛付けてるんだろ?
原作では氷麗ちゃんと青田坊さんだけだったハズなのに?

不思議に思いつつも、私は何が起こっているのか想像をしなかった。
こんなにも早く四国編に突入するなんて思わなかったから。


1日は普通に過ぎて行った。
そう午後の数学を除けば。

「ううう……」

私は、机の上に頭を伏せ、口から見えない魂を出しながら屍と化していた。
数学の授業で、小テストがあったのだ。

うん。見事、玉砕だ。
平面図の問題だったのだが、さっぱり意味が判らなかった。

「線の名前なんて判らないー……。線対称なんて忘れたよー……」

と、カナちゃんから肩をチョンチョンとつつかれた。

「舞香ちゃん。平気?」
「ダメかも。答案真っ白。お母さんの頭に角が生える……」

滂沱の涙を流す私に、カナちゃんは「……あら」と困惑気味な表情をする。

カナちゃんは、頭良さそうだし赤点なんて取らないよね……

自分が更に情けなくなり、ズズーンと沈んでいると2人の友達が話しかけて来た。

「じゃあさ、帰りにドーナツ食べて、憂さ晴らさない?」
「そうそう! 期間限定のドリンクが今日までだし!」

期間限定ドリンク!
の、飲んでみたい!

ムクムクと未知のものを飲んでみたいという欲望が膨らむ。
しかし、「早く帰るのじゃぞ?」と言う心配げなお母さんの顔が脳裏に浮かんだ。

「うーん……。でも、早く帰らないと……」
「ちょっとだけなら平気だって!」
「そうそう! 素早く食べ終えれば、すぐ帰れるって!」
「すぐ……」
「「そうそう」」

コクコク頷く2人の友達に、そっか早く食べれば早く帰れるよね、と納得する。

「じゃあ、行こっかな!」

そう返事を返した途端、カナちゃんが何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。

「舞香ちゃん。今日、清十字怪奇探偵団内の会議をするって、お昼休み清継君が言ってたわ」

な、なー!?

ガガーンッとショックを受ける私を尻目に、2人の友達は「そっか、それじゃあ仕方ないね」と引き下がった。

ううっ。期間限定ドリンク……
清継君…っ、恨むよー!







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