足を止め振り向くと、そこには赤いジャージ姿の奴良リクオ君が居た。
私ではカナちゃんを見つける事は出来ない。
でも、目の前の奴良リクオ君なら、鏡の中のカナちゃんに気付ける!
「あの、奴良君!」
私は無意識に奴良リクオ君に詰め寄っていた。
「カナちゃんが鏡の中で妖怪に襲われてる! お願い! カナちゃんを見つけて!」
「え!?」
奴良リクオ君は真剣な眼をして、私の両肩をガシッと掴む。
「それ、どこの鏡!?」
「校内の男子トイレの鏡! でも、どこにも……っ」
と、奴良リクオ君は私の肩から両手を離すと、バッと私の出て来た男子トイレの鏡を見る。
しかし、居なかったらしく、険しい表情で「クソッ」と呟く。
そして、階段のある方向へ駆け出した。
と、その時、甲(かん)高い女の子の悲鳴が私の耳に届いた。
これって、カナちゃんの悲鳴!?
私は悲鳴が聞こえて来た方向に顔を向ける。
それは、2階の男子トイレからだった。
「カナちゃん!」
慌てて私も階段のある方向へ駆け出す。
足をもつれさせながらも2階の男子トイレに辿り着くと、そこには妖怪の姿に変身した奴良リクオ君が鏡の中に入り込む所だった。
これで、カナちゃんは助かる……
胸にホッと安堵が広がった。
でも、なんで2階の男子トイレ?
もしかして、微妙に原作と違う?
入り口に片手を付きながら、首を傾げる。
しかし、考えても判らない。
しばらくして、夜リクオ君がカナちゃんを横に抱きかかえながら鏡の中から出て来た。
きっと、妖怪を退治したんだろう。
「良かった! カナちゃん。大丈夫?」
傍に寄ると夜リクオ君の腕の中に居るカナちゃんは、今私の存在に気付いたように「あ、舞香ちゃん」と声を上げた。
そして「大丈夫よ」と言葉を続けると、頬を赤く染めながら恥ずかしそうに夜リクオ君を見上げる。
「あの、……」
腕から降ろして欲しい、と言いたいのだろう。
そんなカナちゃんを察したのか、夜リクオ君は無言でカナちゃんをその場に降ろした。
そして「気を付けな」と一言声を掛け、夜リクオ君は立ち上がる。
と、カナちゃんが夜リクオ君の羽織をぎゅっと握り引き止めた。
「あの、ありがとうございます! あ、あなた、もしかして……っ!」
「……」
夜リクオ君はまた無言でカナちゃんを一瞥すると、羽織から手を離させた。
そしてこちらに向かって歩き出そうとしたが、立ち上がり追いかけようとしたカナちゃんがバランスを崩して前のめりになる。
それに気付いた夜リクオ君は、カナちゃんの身体を腕一本で受けとめた。
「足くじいちまったのかい?」
「あ、はい……」
近くで聞こえる夜リクオ君の声にまた顔を赤くするカナちゃん。
その場面になんだか、胸の奥が少しモワモワした。
あれ? 何で不快な気持ちに?
はて?
疑問に思っていると、カナちゃんが肩に掛けている鞄の中から電子音がブルルルッと響いた。
カナちゃんは、夜リクオ君の腕に掴まりながら、鞄の中から清継君に貰った不気味な人形を出した。
そしてそれを耳に当てる。
すると、清継君の声が人形から聞こえて来た。
『家長さん、無事かい!?』
「うん。もう、全然大丈夫よ! えっと……、妖怪じゃなかったみたい。ごめんね」
カナちゃんは、夜リクオ君を見上げながら答えた。
多分、妖怪に襲われたのは、真実だと告げると夜リクオ君の迷惑になってしまうと思ったのだろうか?
うーん。確かに真実を告げたら、夜リクオ君大好き人間の清継君は、奇声を上げて猛ダッシュで駆けて来そうだ。
『そうなのかい? まあ、無事でなによりだよ。また何かあったら連絡をくれたまえ! マイファミリーの為なら苦労も惜しまないよ!』
「あ、はは。ありがと……」
カナちゃんは苦笑をしながら切れた通信人形を鞄に直し込んだ。
と、夜リクオ君が私の方を振り向く。
「有永サン。カナちゃんを送ってやってくんねぇか?」
そっか。妖怪は一緒に電車には乗れないよね。
お母さんには、カナちゃんを送って行くって連絡入れればいっか。
うん、と頷こうとすると、カナちゃんに待ったをかけられた。
「待って! 舞香ちゃん、遅くなると家の人から怒られるわ! だからっ……!」
カナちゃん?