化原先生というおじさんと別れ、私達はやっと清継君の別荘に辿りついた。
辺りはすっかり薄暗くなっていた。
多分18時頃だろう。
別荘の中に足を踏み入れると、そこはまさに金持ちの家、と言っていいほど、豪華絢爛な内装だった。
天井にはいくつものシャンデリアが輝き、壁には立派な鷹の剥製や絵画が飾られている。

清継君家もすごかったけど、別荘もすごい……
と、言う事は、超高級肉が夕食に出る確率が高い!!
やっぱり、高級霜降り肉かな?
それとも、熟成肉?
ステーキだったら、やっぱりレアだ。これは譲れない。
でも、しゃぶしゃぶも……。
薄い肉をガッと数枚箸で掴んでお湯に通し、口の中に入れると舌の上で蕩ける極上肉。
うまっ!

うっとりと肉に想いを馳せていると、清継君が別荘の中を説明し始めていた。

「食堂は……、そしてここが……」

て、言うか、山登りしたからお腹が空いてるんだー!
食事が欲しい!

いつ食事の事を言うのかと、期待を込めて清継君の言葉を待っていると、先に温泉へ案内された。

「さあ、お待ちかねの温泉だよ! 女の子達は先に思う存分に入ってくれたまえ!」
「キャーッ! 温泉ー!!」
「待ってましたぁ!」

いや、お腹減ってるんですけど……

グーッと鳴りそうなお腹を押さえていると、カナちゃんから顔を覗きこまれた。

「舞香ちゃん、どうしたの?」
「え? あ、お腹が……」
「ん?」

カナちゃんは、まだお腹空いていないようだ。
私だけお腹空いただなんて言ったら、食いしんぼのように思われるかもしれない。
私は力いっぱい首を振ると、カナちゃんを促した。

「ううん、なんでもない! それより、早く温泉入ろ!」
「うん」

空腹を誤魔化しながら私は、カナちゃんと連れだって脱衣所に向かった。


脱衣所で約一週間前に噛まれた肩を見た。
窮鼠の手下に噛まれた傷は、いつの間にか塞がっている。
普通の人間では有り得ない程の治りの早さだ。
なんで治りが早いんだろう?
この身体に妖怪の血が流れているから?
いや、でも普通はそんな事ないって『ぬらりひょんの孫』の漫画にも書いてあった。
奴良リクオ君の傷の治りが早いのは、珱姫の血を受け継いでいるからだ。
じゃあ、私はなんでこんなに治るのが早いんだろ?
……。お父さんが珱姫のように特殊な力を持っているから、とか?
あはは、まさかね!!

自分の馬鹿げた考えを心の中で笑っていると、タオルを巻いたゆらちゃんが声を掛けて来た。

「温泉入ってどうもないん?」

そう。肩の怪我の酷さは、現状を見ていたゆらちゃんしか知らない。
多分、まだ治りきってないから、入るのは無理なのではないのか、と心配してくれているのだろう。

「うん。もう大丈夫!」

そう言って笑うと、ゆらちゃんは「そうなんや」とホッとしたように小さく笑い返した。
そして、巻いたタオルの上から自分の胸元をポンッと叩くと、少し得意げ口元を上げる。

「今日は、安心してや。きちんと守ったる」

確か、原作でもゆらちゃんは、お風呂の中で式神を使って戦っていた。
きっと今もゆらちゃんは身体のどこかに式神を持っているんだろう。
私はその言葉に素直に頷いた。

頼りにしてる! ゆらちゃん!!







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