先程とは違い、デコボコした山道を登って行く。
一歩一歩土を踏みしめる度に、靴の下の土がポロポロと崩れ、下へと転がって行った。
滑ったらそのまま麓迄、転がり落ちそうな斜面だ。
こわっ、こわっ!
滑らないよう気をつけながら、斜面を登っていると、途中しめ縄をした太い木や「入ルベカラズ」と書かれた立て札を見つけた。
ええ!? このままおじさんについて行っていいのかな?
不安になるが、皆は何とも思っていないのか、それとも立て札を見無かったのか、平然とおじさんの後を登って行く。
なので仕方無く私も皆の後について行った。
すると、だんだん辺りが白い靄に覆われて来る。
この辺りに川でもあるのかな?
いや、靄の出来方は違ったっけ?
どうでも良い事をつらつらと考えていると、前方を歩いていた巻さんが足を止めた。
「何、これ?」
巻さんが足を止めて見ていたものは、1メートル50センチほどの高さに直径40センチか50センチほどの、黒い棒状のものだった。
先頭を歩いていたおじさんは、クルリと振り向くと巻さんの言葉に答えた。
「それは爪だよ」
「爪ぇ?」
訝しげに眉を顰める巻さんにおじさんは自慢げな顔をし、目を細めた。
「そう。周りを見てごらん〜。ほら、妖怪の爪がいっぱいさ!」
その言葉に上を見上げると、巨大な爪が何本も周りの木々に突き刺さっていた。
それはまるで昆虫の足を巨大化したような感じのものだった。
お、大きい!!
でも、原作の牛鬼は人型だし、爪なんて無かったような気が……?
と、言う事は、原作で巻さん達がお風呂に入ってる時に襲って来た蜘蛛の爪?
うわぁ……大きい蜘蛛なんて、見たくないなぁ……
いやだなぁ、と眉を顰めていると、皆が騒ぎだした。
「ちょっ、マジ妖怪居るじゃん!!」
「死んだらどーすんの!?」
「殺されるよぉ!!」
「清継ぅーーっ! なんてとこに連れて来んのよー!」
と、清継君が大声を上げて皆を止めた。
「君達。何をビビッてるんだい!? 何があってもボクの別荘にはセキュリティがついてるから安心したまえ!」
「そーなの?」
巻さんが、安堵したような顔になる。
しかし、奴良リクオ君が不安そうに口を開いた。
「でも、セキュリティ……。妖怪に効くかな……?」
「はははっ! 安心したまえ! それに今までうちの使用人が妖怪に襲われたという報告は全く無いっ!」
そーなんだ。と清継君の言葉に頷いていると、隣に居たカナちゃんが声を掛けて来た。
「舞香ちゃん。どう思う?」
「え? どうって?」
「この爪だよ。本物かしら?」
カナちゃんは手を口元に当て、不安気に瞳を揺らす。
うわっ、カナちゃん、すっご可愛いです!
私は、不安を払拭させてあげようと、軽く笑った。
「どうかなー? 神社のご神体も結構人間の造ったものが多いし、この爪ももしかしたら、造り物かも」
「う、うん! そうだよね!」
カナちゃんの顔が瞬く間にパアッと明るくなる。
でも、多分、本物だと思う……
という言葉は、心の奥に沈めた。