時間が経つにつれ、やっとドキドキは治まりホッと胸をなでおろす。
ドキドキが続き過ぎて、すごく息苦しさを覚えたからだ。

って、言うか、病気なのかな?
うーん。この身体になってからというもの、大きな病気はした事ないんだけどなぁ?


新幹線からバスに乗り換え、午後3時半ごろに目的地の麓の停留所に着いた。
この山が捩目山だ。
私は木々が茂った山を見上げる。
どこにでもあるような山だが、原作通りだとすればこの山の頂上に、妖怪牛鬼が住んでいる。
実感は沸かないが、牛鬼の顔が原作通りなのか、ちょっと興味があった。
と、先にバスから降り、地図を眺めていた清継君が、「ふふ、流石先生。やってくれますね」と呟くと、顔を上げこちらに視線を向けた。

「よしっ! みんな。先生との待ち合わせ場所の梅若丸の祠目指して、出発だよー!」

清継君が、テンション高く、腕を掲げる。

って、ん? 先生って誰?
それに待ち合わせって……?
別荘に行くんじゃないの?

疑問を抱きつつ、ハイテンションの清継君を見る。だが、聞いてもまともに答えは返って来そうにない。修行の一言で済まされる気がする。

うむ。こういう時こそ、原作知識!!
原作通りの流れならば、先生というのは牛頭の見えない糸に操られた小太りのおじさんの事。名前は忘れたけど。
確か原作では、そのおじさんに会って、梅若丸の話し聞くんだっけ?
まあ、私には、関係ないか。
別荘で肉を食べれればいいんだし!
それに、妖怪が襲って来ても、数珠と霊符、しっかり持ってきたしね!

私は、右手でポケットを触った。と、カナちゃんがふいに声を掛けてきた。

「舞香ちゃん。早く行こ。みんな先に登ってるよ」

その言葉にハッと前を見ると、頂上まで繋がっているのか判らないが、上に続く長い長い石段を皆は登り始めていた。

「ごめんっ。あ、カナちゃん、待っててくれたの?」
「だって、友達じゃない」

笑顔で答えるカナちゃんに胸にジーンッとしたものが広がる。
ただ、転校生だから仲の良いグループに入れてくれているだけかと思っていた。

「ありがと。カナちゃん」
「ん?」

何故、お礼を言われるのか判らない、というような顔をするカナちゃん。
それでも、私は心から感謝した。


どのくらい登っただろう?
1時間くらい登り続けても、まだ上へと階段は続いていた。
昔の人がこの階段造ったんだろうけど、すごいなー……
何千段あるんだろ?

私は、疲労感にはふっと息を吐いた。
と、前を歩いていた巻さんと鳥居さんは限界が来たらしく、不満の声を上げた。

「ちょっとぉー、この階段どこまで続くのよーっ! ずっと山だしっ! 自動販売機どこよー!」
「足痛い――っ!」
「清継、ジュースー!」

そんな巻さんと鳥居さんに先頭を行く清継君は振り返った。

「君達! 当り前の事じゃないか! これも修行だよ、修行! ボクが主に会う為のね!」
「主なんてどーでもいー! つーか、どこまで登んのよ!」

巻さんの言葉に、清継君は周りを見渡し、ふむと顎に手を当て、地図を取り出した。

「待ち合わせの場所は、山の中腹にある『梅若丸のほこら』なんだけどね…」

見当たらないな、と再び清継君は周りを見回した。
と、清継君の後ろに居たゆらちゃんが、右側に目をやると何かに気付いたように声を上げ指差す。

「あ…、なんやろ、あれ?」
ん?

私もつられて右側を見た。木々の間に薄い靄が漂っている。
そして、指差された先を良くみるとそこには、小さな石造りのほこらがあった。
中に何かを祀っているようだが、良く判らない。
その祠の横に細い岩が立っていた。
何か文字が彫られているようだが、これも良く判らない。

ほこらの由来でも書いてる?

そう思っていると、ゆらちゃんが「ちょっと見てきます」と言い動いた。
雑草を踏みわけながら、木々の間に足を踏み入れる。
清継君も「アクティブな陰陽師だね!」と言いつつ、ゆらちゃんの後を付いて行く。
そんな中、少し前方に居た奴良リクオ君が、「梅若丸のほこらって書いてるよ」と言い放った。
おお! すごく目がいいんだー、と感心していると隣に居たカナちゃんが怪訝そうな声音で、奴良リクオ君の名前を呟いた。

「リクオ君。皆より目が良いのに、なんでメガネなんてかけてるんだろ…?」
「さあ?」

私はそう答えるしか無かった。
だって、原作でその理由を軽く知っていても本人じゃないから、上手く説明できない。
すると、祠の傍に行った清継君の喜びに溢れた歓声が、辺りに響き渡った。

「やったぁ! やったぞ! ここが梅若丸の祠だー!」

と、奴良リクオ君に「流石、リクオ君!」と尊敬の眼差しを向けるつららちゃん。
それを見て、カナちゃんの顔が突然怒りに染まる。

「あの子、顔近いわよ……っ!」
「は?」
「あ、ううん。なんでもないっ! 気にしないで!」

慌てて取り繕うカナちゃんに私は首を傾げた。







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