「ねえ、これってただのインディアン・ポーカーじゃん?」

巻さんは妖怪のイラストが描かれたカードを額にかざしながら、呆れた声を上げる。
そんな巻さんに、清継君は、納豆小僧のイラストが描かれたカードを額にかざしながら答えた。

「バカ言いたまえ! このカードはトランプに似ているが、『絵』と『妖怪パワー』を書いたものだよ! やっていくうちに自然と妖怪運が身につく、優れモノさ! ねぇ、島君!」
「は、はぁ……」

曖昧に頷きながら、島君は清継君の額にかざされたカードを見ている。
納豆小僧の横に書かれた『妖怪パワー』は1。最弱だ。

うーん。1だったら、妖怪運。あんまり上がらないだろうなぁ……

清継君が提案した修行は、原作にも載っていたインディアン・ポーカーに似たゲームの事だった。
インディアンポーカーとは、自分の額に一枚トランプカードを当て、自分以外のカードが全部見える状態で、自分のカードの大小で勝ち負けを決めるゲーム。
自分のカードが見えない状態であるがゆえに、自分が強いカードでか弱いカードかは、他のプレイヤーの様子を良く観察して判断しなければならない。
したがって、人間観察力、状況判断力などが問われる非常にシビアなゲームである。
親はジャンケンで決めるのだが、何故か毎回清継君が親となっていた。
親である清継君は、自信満々の表情で、私達の顔を見る。
そして、ニヤリと笑うと掛け声を掛けた。

「それじゃあ勝負だよ! せーの! そりゃー!! ははは、多分、ボクは最強の牛鬼だな!」

皆のカードが一斉に場へと出される。

あ。今回は10の窮鼠だ。
うわっ、嫌な思い出が蘇る。

肩の痛みを思い出し眉根を寄せる中、清継君が悲壮な声を上げた。

「うわあああっ! また納豆小僧ぉぅぅぅっ!!」

通算20敗目。ご愁傷様です。

心の中で頭を抱える清継君に合掌していると、清継君の隣に座る島君が呆れたように奴良リクオ君へ声を掛けた。

「奴良……。お前、妖怪運あるなー。20連勝なんてフツーじゃねぇぜ」

そう。今回の勝者も13のぬらりひょんカードを引いた奴良リクオ君だった。
次点は、12の木魚達磨を引いたゆらちゃんだ。
しかしこのカードにはトランプのように記号が書かれて無いので、2人が同じ最強数字を引くと同時に勝者となる事も出来た。
私の元には色々なカードが来た。だが、最強のカードはなかなか来なかった。

うーむ。お母さんが雷獣っていう妖怪だから、奴良リクオ君がぬらりひょんのカードがばかりが来るように、雷獣のカードばかり来ると思ったのだけど…
全くそういう気配ナシッ!
やはり、奴良リクオ君は特別な運でも持ってる?

そう思っていると、島君の言葉に奴良リクオ君は苦笑しながら横に手を振った。

「え!? たまたまだよ、たまたま! ボクはフツーフツー! あっ!」

奴良リクオ君は通路の後ろ側に顔を向けると、立ち上がった。

「ボク何か買ってくるよ。皆、何がいい?」
ん?

奴良リクオ君が視線をやった方を向くと、販売員の制服を着たお姉さんが色々な商品を乗せたワゴンを押し、こちらへやって来ていた。
皆は次々と注文を奴良リクオ君にして行く。
私はなけなしの財布の中身の事を考え、一番安いものを頼んだ。
アーモンドキャラメルだ。

霊符を購入したのが痛かった。でも、うん……後悔しちゃダメだ!
霊符は、必要なんだから!
でも、ポッキーも欲しかった……

皆の注文を聞き終えると、奴良リクオ君は販売員さんの居る方向に向かってタタタッと駆け出した。
そんな奴良リクオ君を、つららちゃんは目を輝かせながら見送った。
と、そんなつららちゃんの向かいの席に座っていたカナちゃんがつららちゃんを半眼で睨みつけていた。
カナちゃんは見えない黒い空気を発しているようだ。
隣に座っている鳥居さんと巻さんはおしゃべりに夢中になっていて、カナちゃんの様子に気付いてない。

うおあ!? カナちゃん!? どしたの!?
なにか、怒ってる!?

首を傾げていると、腕にたくさんのお菓子を抱えた奴良リクオ君が戻って来た。
そんな奴良リクオ君に、つららちゃんは可愛らしい声で声援を送る。

「リクオ君、頑張れー! ファイト!」

そしてカナちゃんの顔が、何故か怒りの表情に変化していた。
背中に稲光が見える。
と、原作の内容をふいに思い出した。

ん? そう言えば、原作ではつららちゃんとカナちゃんってライバル同士だったっけ?
て、事は、現実でもそうであるなら、カナちゃんは今、奴良リクオ君を応援しているつららちゃんに嫉妬してるって事?
おお! 嫉妬という事は、奴良リクオ君の事を好きになってる、って事だ!
原作通りの恋愛! 映画見てるみたい!

そう思っていると、何故か胸の中にモヤッとしたものが広がった。

なに? この気持ち?

はて? と胸を押さえながら首を傾げていると、目の前にキャラメルの箱がスッと現れた。

「はい。有永さんはアーモンドキャラメルだよね!」

顔を上げると笑顔の奴良リクオ君が、キャラメルの箱を差し出している。
その笑顔に胸がドキッと音を立てる。
そして、何故かドキドキが治まらない。

「あ、りがと。あ、代金!」
「いーの、いーの。ボクの奢り!」
「奴良ー、やっぱ良い奴ー!」
「ごちー!」

皆が口々に奴良リクオ君へお礼の言葉を言う中、私は必死で早まった心臓を治まらせようと必死になっていた。

なんで、心臓、普通に戻らないのー!?








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