「仲良し夫婦で良いわねー。うふふ、舞香ちゃんも将来あんな風になるのかしら?」

いや、なりません。

私は無言で首を振りながら、心の中で断言する。
すると、奴良リクオ君のお母さん。若菜さんは、ふふ、と口元を緩めて笑った。
なんだかその笑いが少し寂しそうに見えるのは、気の所為?
と、やっとお互い満足したのかお父さんとお母さんは抱擁を解いた。
そして、お父さんは若菜さんに向かって頭を下げる。

「このたびは妻と娘がお世話になり、感謝します。そして2度もご迷惑を掛けてしまい申し訳ない」

そんなお父さんに若菜さんは片手を振りながら笑顔で答えた。

「いえいえ、迷惑なんてそんな事全然ないですわ。気になさらないで下さいな」
「しかし……」
「それに将来家族になるかもしれないし、予行練習と思えば良いんです。うふふ、先が楽しみだわー!」

語尾にハートがついていそうな言葉を楽しそうに返す若菜さん。
私とお父さんは首を同時に傾げた。

家族? どういう意味だろう?

お父さんも意味が判らなかったのだろう。
そんな中、お母さんは俯き加減になりプルプルと身体を震わせた。

「お母さん?」
「芙蓉。どうしたんだい?」

寒いのかい?と聞くお父さんを押しのけるとお母さんは若菜さんに噛みついた。

「舞香はぬらりひょんのわっぱなんぞには、やらぬわ!」
「あら。うちの事なら気になさらないで下さいね。皆、大歓迎よ!」
「そんな心配しておらぬわー!」

話しが全く見えない。
若菜さんに詰め寄るお母さんを首無さんが間に入って宥める中、私とお父さんは顔を見合わせ更に首を傾げた。


何故か憤慨しているお母さんを車の中へ連れ込み、奴良家の方々に見送られながら、お父さんは車を発進させる。
そして、一応もう一度肩の傷を精密検査をして貰おうと言う事で、総合病院に連れて行かれた。
異常は無かったが、傷の手当てをもう一度された。
と、包帯を巻かれている最中、ふとお父さんに対しての疑問が沸いて来た。

そう言えば、お父さんが迎えに来た時、周りに妖怪がたくさん居たのだけど何故かお父さんの態度は普通通りだった。
普通の人間なら、驚くか逃げるかする。
うーむ。お母さんが妖怪と知っているから他の妖怪を見ても驚かなかった?

と、ふとある事に気付く。

あれ?お母さんが妖怪って事は、私の身体…半妖?

自分の手を見る。
でも、お母さんみたいな獣の手じゃない。人間の手だ。
この手が獣の姿になった事はない。
ふむ。
もしかしてそのうち、お母さんみたいに獣に変身するようになるんだろうか?
判らない。

「ま、いっか」
「え? どうしたの?」

包帯を巻き替えてくれていた看護師さんが、顔を上げる。
私は慌てて首を振った。

「な、なんでもないです!」
「そう? 痛かったら言ってね」
「はい」

うん。変身した時は、変身した時だ。
今から考えてもどうにもならない。

でも、自分の意志と関係無しに突然変身するって事はないよね?

一抹の不安を抱きつつ、私はそれ以上考える事を止めた。








- ナノ -