ちなみにこの身体の名前は、『有永舞香』だ。
名前が変わってなくてホッとする。
そして、お父さんは中小企業に勤める、のほほん風の若い青年だった。
いつも穏やかに笑っている。
お母さんは、反対に壮絶過ぎるほどの美女だった。
波打つ腰までの黒髪に口紅を引かずとも熟した艶やかさを持つ唇。
白磁の肌。豊かな胸。
文才の無い私には、これくらいしか表現できないんだけど、とにかく妖艶な美女。
他の人から見ればきつい印象を覚えるような容姿なんだけど、すごく優しいお母さんだ。
言葉使いが古風だけど。
そんな両親から育てられたのだが、中身は17歳。
子供らしくない子供に育ったかもしれない。
そして中学に上がる4月。父の転勤の為、浮世絵町という町に転校することとなった。

私は、ドレッサーの前で肩甲骨まで伸ばした黒髪を櫛で梳く。
鏡に写る自分の顔はどこまでも平凡。
お母さんの遺伝子どこ行ったの?という程に完璧に父似だ。
不便は無いけど、少しはお母さんに似た所が欲しかった。
そう思いつつ、ピン止めでサイドの髪を止めていると、古風な言葉が自室のドアを開ける音と共に聞こえて来た。

「舞香。仕度は済んだかえ?」
「ん。あとちょっとで終わり。、、良し。済んだ!」

私は、ピンを止め終えるとクルリと後ろを向く。
そこには、髪をセットしスーツを着たお母さんが立っていた。妖艶な美貌に微笑を浮かべている。

「私服姿も可愛いが、制服姿もまた新鮮じゃ。流石、我が子じゃ」

その言葉と共に頭を優しく撫ぜられる。
いや。普通だと思う……
けど、それを口にすると悲しそうな顔をしながら、可愛らしい部分を事細かく挙げられるので、何も言えない。

「ほんに可愛いのう。じゃが、夢夢、男に心を許すでないぞえ? 男は皆汚らしい獣じゃからな」

こんな平凡な子を襲う男はいません。

心の中でそう反論しつつ、私はコクリと頷く。

「良い子じゃ」

お母さんは、満足げに笑んだ。







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