ゆらちゃん?

離れた場所に立っているゆらちゃんのお母さんを見る目が険しい。
いや、険しいと言うか、真っ直ぐにきつく睨んでいる。
そんなゆらちゃんの視線を受けながらもお母さんはゆるりとゆらちゃんの方へ振り向き、金色の目で見返した。

「なんじゃ、帰ったのでは無かったのかえ?」
「胸騒ぎがして戻って来たんや!」

まずい、まずい!
ゆらちゃんは陰陽師!
お母さん、祓われる!?

「あ、あの! 花開院さん!」

私は思わずゆらちゃんに向かって声を上げた。
お母さんが妖怪だったなんて、今でも現実から逃げ出したい。
でも、お母さんはお母さん。
祓われるとなると、胸が痛い。
祓うなんて止めて欲しい!

ゆらちゃんは私の叫び声に怪訝そうな視線を向けた。
そんなゆらちゃんに私は言葉を続ける。

「私、大丈夫だから!」
「何が大丈夫やねん! 有永さん、妖怪に食われかけとるやないか!」

違う、違う!
ゆらちゃん、勘違い!!

「違っ!」

必死に反論しようとすると、お母さんは眉間に皺を寄せながらジロリとゆらちゃんを睨んだ。

「五月蠅い小娘だのう。今、妾は忙しい。さっさと帰るのじゃ」

その言葉に、何か勘違いした様子のゆらちゃんは私に向かって声を上げた。

「有永さん、今助けるさかい待っててや!」
「だから、花開院さん、違う!」

一生懸命ゆらちゃんの言葉に反論していると、突然後ろから男の人の声が上がった。

「……何やってんだい?」

艶やかな低い声。
この声は……、夜リクオ君?

私は上半身を起こし、後ろを振り向く。
そこには窮鼠との戦闘を終えたのか、夜リクオ君を先頭に様々な妖怪が後ろにずらりと並んでいた。
人型の妖怪達は許容出来るけど、2メートルほどもある大きな毛の塊りの妖怪や、牛車に1メートルほどもある鬼の顔がついた妖怪とかは、こんな状況でも心臓が飛び上がるほど驚く。

うあっ、壮観!!
と、言うか、後ろの巨大な妖怪、怖いよ!

お母さんもゆらちゃんから奴良組の面々へと視線を移動させた。
そして夜リクオ君の上で、視線を止めるとおもむろに口を開いた。

「ぬらりひょんの孫じゃな。ここまで連れて来てくれて感謝するぞえ」
「……ああ」

され? 夜リクオ君、なんでお母さんの事知ってる?
お母さんと知り合いだった?

疑問が浮かんで来るが、すぐに答えが頭に浮かんだ。
檻を破ったお母さんは人間の姿だったが、今は妖怪の姿だ。
しかし、2つの姿の中身は同じだと知っていると言う事は、多分、お母さんが両方の姿を夜リクオ君に見せた、って事。
そう考えを纏めていると、お母さんが低く唸り声を上げる。

「じゃが、何故舞香を巻き込んだのじゃ?事と次第によっては、許さぬぞ」

夜リクオ君は何も言わず、腕を組んだまま目を閉じた。
と、猫耳を頭に生やし片目に黒ブチ模様が入った青年が、奴良組の妖怪達をかきわけて前に進み出て来た。

「待ってくだせぇ!」
「なんじゃ。お主は?」
「へい。ワシは奴良組系『化猫組』当主、良太猫と申します。雷獣様。これだけは言わせて下せぇ!」

お母さんは静かな金の目で、良太猫を見つめる。

「若は悪くないんでさぁ。原因は本当に一番街を預かっていたワシらなんです!」

その言葉に、そう言えば、と原作を思い出す。
一番街を任されていたのは、化猫達だ。
それを、陰のボスの指示で窮鼠が乗っ取ったのだ。
ん? 陰のボスって誰だったっけ?
確か……GWに敵として出て来る……牛鬼

私はチラリと夜リクオ君を見る。
夜リクオ君は、黙って良太猫とお母さんの会話を聞いているようだ。
今度は牛鬼と戦い、次に四国、そして羽衣狐と戦って行く。
血みどろになって……

私はその姿を想像すると、あまりの痛々しさに思わず眉を顰めてしまった。
と、私の視線に気付いたのか、夜リクオ君は私に視線を向けた。
そして歩を踏み出すと私の方に歩み寄って来た。

「怪我、平気かい?」
へ?

何故かその手が私にさし伸ばされた。







- ナノ -