下っ端のネズミ顔ホストに腕をぐいっと引っ張られ、ゆらちゃんと離れ離れにさせられた。
そして、そのまま肩口に牙を立てられる。
「いっ!!」
痛い、痛い!
噛まれた所がすごく痛くて熱い。
私は痛みから逃れようとすごく暴れた。
でも、妖怪の力には敵わない。
いやだ。
こんなヤツに、食べられるなんて
イヤだ。死にたくない、
「いやぁーー!」
叫んだとたん私の上にドンッと光の塊が落ちた。
「ギャッ!」
あ……?
白い光が瞼の裏を焼いたのは一瞬だった。
目を開けるといつの間にか、ネズミ顔ホストの拘束は解かれていた。
ネズミ顔ホストの姿形が無い。
ただ、黒い塵のようなものが、辺りを漂っている。
今の光、なに?
この黒い塵みたいなのは…なに?
呆然としていると、突然、低く艶やかな声が辺りの空気を震わせた。
「待たせたな……。ネズミども」
この声は
私は頭を真っ白にしたまま、声のした方へ首を巡らせた。
鉄の格子の向こう側には白い靄が足元にたちこめている。
その中黒い影の集団が居た。
あれは、もしかして、夜リクオ君が…率いてる百鬼夜行……?
「なんで…?」
思わず疑問が口から突いて出る。
なんでここに?
と、離れた場所からゆらちゃんの呆然とした呟きが聞こえて来た。
「うそ…百鬼夜行……? まさか…」
その声にやっと得心がいった。
私ではなく、ゆらちゃんを助けに来たのだ。
そう言えば、天敵の陰陽師に恩を売るのも悪くない、と言っていた一場面があった気がする。
現実でもそう言って、百鬼夜行を率いて出入りに来たのだろう。
と、巨大ケージの横の椅子に座っていた金髪ホストが、ガタンっと立ち上がりその集団の先頭に向かって吠えた。
「何者だぁ!? テメー! ここは、オレのシマだぞ! 勝手に入ってくんじゃねぇ!」
「……」
だが、何も言わない夜リクオ君の前に猫耳を頭に付けた男が進み出て、金髪ホストに怒鳴る。
「このお方は、奴良組3代目奴良リクオ様だ! それにここは奴良組のモンだ! 勝手に自分のもんにするな!」
「何!? ハッ、あのクソガキが、ずいぶん立派な姿になったじゃねぇか……。奴良リクオ。約束の回状は廻したんだろうなぁ?」
「……回状ってのは、これのことかい?」
夜リクオ君は、懐から何か書状のようなものを出す。そして、おもむろにビリビリッと細切れに破いていった。
それを唖然と見る金髪ホスト。
すると、後ろの方で、メキバキッと音がした。
何? と後ろを振り向くとそこには、華奢な腕で軽々と鉄の格子を曲げ中に入って来る物凄い美女がいた。
って、お母さん!?!?
吃驚して何も言えず、ただ、口をパクパクし目を丸くしていると、お母さんは私に近付いて手を差し伸べて来た。
「ほんに厄介な事に巻き込まれおったのう。じゃが、妾が来たからには安心じゃ。舞香。帰るぞえ?」
「え? だって、お母さん?」
頭の中が混乱していて、何て言っていいか判らない。
なんでお母さん、ここに居るの?
それに、なんで鉄なんて曲げれるの?
なんで? なんで?
疑問でぐるぐるする私の腕を掴むと立ち上がらせたお母さんは、ゆらちゃんの方にも視線を移した。
「そこの陰陽師。ここは戦場となるが、巻き込まれたくなかったら妾について参れ」
「あ、あんた、妖怪なんか!?」
「どうでも良いじゃろう」
そう言い放つと、私の腕を掴んだまま、檻の外へと歩きだした。