あれから私は学校を1日休まされた。
別にどこも怪我してないから、大丈夫っ!と言ったんだけど、お母さんは聞いてくれなかった。
そして、翌日。
いつも通り電車に乗り、浮世絵町で降りるとカナちゃんと2人の友達に会った。
昨日は大丈夫だったの?と聞かれるが、病気で休んだのではないので、何と答えたらいいか判らず、取り敢えず笑いながら頷いた。
たわいないお喋りをしながら学校に着くと、靴箱で奴良リクオ君に会った。
奴良リクオ君は私達に向かっていつものように明るい笑顔で、「おはよう!」と挨拶をしてくれた。
その笑顔に心が洗われる。

笑顔が眩しいよ! 奴良リクオ君!

と、一緒に挨拶を返したカナちゃんが奴良リクオ君に話しかけた。

「リクオ君。今日は具合いいのね」
「え?」
「だって昨日リクオ君、なんだか顔色が悪かったよ?」
「あ、はは。心配かけちゃってごめん。でも、別になんともないから! 元気、元気!」

腕に力を入れて拳を握る奴良リクオ君。そんな奴良リクオ君に「そう?」と首を傾げる。

ふむ。昨日具合悪かったのかぁ……
そう言えば、昨日帰る直前身体を硬直させてたし……
私の笑顔の所為じゃなくて、何かの病気の所為だったのかな?

なんだか心配になる。
と、突然奴良リクオ君の後ろからぬっと清継君が現れた。

「やぁ。君達……。ごぶさたぁあ――……」
「うわっ、清継君!?」

自分の後ろを見て吃驚する奴良リクオ君。
それに構わず清継君は、奴良リクオ君に顔をずずずいっと近付けた。

「奴良君。見たよねぇ!見たよねぇ!!」
「ち、近っ……って、何が……?」
「妖怪だよ。妖怪! 奴良君! 君も旧校舎で見たハズだ! なのに、なぜか気がついたら公園のベンチで寝ていたんだ!!」

奴良リクオ君に迫る清継君を見ながら、カナちゃんは「あー、この前の……」と呟く。
と、旧校舎の妖怪の事を尋ねる清継君にふと疑問を覚えた。

なんで昨日か一昨日聞かなかったんだろ?
聞く時間が無かったのかな?

そう思っていると清継君の横に立っている島君が答えを教えてくれた。

「清継君、2日続けて風邪で休んでたんっすよ」
「そうなんだ……」
「有永さんも昨日休んだし、風邪流行ってるのかな?」
「ほんとだねー」

カナちゃんと、その友達2人が言葉を続ける。
と、清継君が奴良リクオ君から答えを吐き出させようと襟元を掴み、身体を激しく揺さぶった。

「妖怪、居たよね! 見たよね奴良君! 妖怪ーー!」
「えぐうっ、ぐは……、しらないよー!」

と、清継君の暴走を止めるように可愛らしい声が横から割って入って来た。

「それって不良と間違えたんじゃないかしら?」

声が聞こえた方に視線を移すとそこには、長い黒髪に目がつぶらな美少女が立っていた。
4月なのに何故かマフラーをしている。

「おお、君は確か……」
「ええ。あの時みんなと一緒に参加した及川よ。私も妖怪なんか見なかったわ。きっとたむろしてた不良が脅かして来たんじゃない?」

って、及川って言ったら、雪女の氷麗ちゃん!
おお!あの時は、夜だったからまともに見てなかったけど、こうしてみるとすごく可愛い!!
うわー! あの可愛さ! 感動!

じーん、としている間にも、清継君と氷麗ちゃんの会話は進んで行った。

「いや、しかし確かに……」
「あら。もしかして気絶でもしちゃってたの? 情けないわぁあ――」
「そ、そんなっ! し、してないぞ! 気絶なんて!」
「そうよね。男の子が気絶なんてー」
「あ、ああ、不良。確かに不良だったね。覚えてる。覚えてる!!」

流石と言うべきなのか。
氷麗ちゃんはまるっと清継君を言いくるめた。
そして、「そーか、そうだよな!」と自分に言い聞かせながら去る清継君とそれを追う島君の後ろ姿が見えなくなると、おもむろに肩にかけていた学生カバンから、お弁当箱を取り出した。
それをずいっと奴良リクオ君に差し出す。

「はい。私のお手製弁当! 忘れちゃダメですよー」

と、奴良リクオ君はチラッとこちらを見ると、氷麗ちゃんの手首をガシリと掴み、そのまま廊下の向こうまで駆け去って行った。
私達はポカーンとしながら、それを見送る。

なんだったんだろう?

首を傾げた私だったが、ふと原作を思い出した。

そーいえば、こんな場面もあったっけ?
確か、妖怪である氷麗ちゃんが学校に来ること自体拙い、と思ったからだっけ?
それとも、カナちゃんの前でお弁当渡されるの誤解されたくなかったからだっけ?

そう思いつつ隣に居るカナちゃんにチラリと視線をやる。

!?!?!?
カナちゃん!?

カナちゃんは、怖いほどジト目で廊下の向こうを見ていた。

カナちゃん、どしたの!?







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