家へ電話をかけるとプルルッと呼び出し音が終わらないうちに、受話器が取られすごい剣幕でお母さんの叫び声が聞こえて来た。

『舞香じゃな! どこにいるのじゃ! 舞香!』

うわわわ。すごく怒ってる!?
連絡忘れてごめんなさい!お母さん!

心の中で謝りつつ、「奴良君の家に……」と言いかけ、ハタとする。
そう言えば、ここに私を連れて来たのは夜リクオ君。
序盤は誰も夜リクオ君と奴良リクオ君が同一人物だって知らないんだよね。
同一人物だって知らないなのに、ここが奴良リクオ君の家だと知っていたら、おかしい。
私は頭を抱えた。

どー言えばいいのー!

『舞香? 突然黙りこんでどうしたのじゃ? もしや、悪い男にでも連れ攫われておるのではないじゃろうな!』

心配げな声が携帯から聞こえて来る。

「う……心配かけて、ごめんなさい。良い人の所に泊らせて貰ったから、大丈夫。えっと、また電話するね!」
『舞香!?』

私は、お母さんごめんっと謝りながら、携帯を切った。
そして顔を上げグッと拳を握る。

よしっ! 思い切ってこの家の人にここはどこですか?って聞こう!


私は夜着から制服に着替えると、障子をそっと開けた。
すると、丁度良い所に手桶を持った明るい髪の青年が通りがかった。
小袖に袖と肩の繋ぎ目の部分が編み目の羽織りを羽織っている。
そして、首の部分には黒いマフラーを巻いていた。

「あのっ!」

思い切って声をかけると、その青年は顔をこちらに向けた。
なかなか、甘いマスクをしている。カッコ良い。

「おや? お客様ですか?」
「えっと、ここ、どこと言うか、どなたの家ですか?」
「え?」

???
なんで、「え?」と聞き返されるのか判らない。
聞き方が拙かった?

顔の筋肉が強張るのを感じる。
そんな私に青年は不思議そうに問いかけて来た。

「君、ここが奴良組の総本家だと知らないで泊っていたのかい?」

うわわ、不審者と疑われた!?
こんな時、こんな時はどう返せば!?

あわあわ、と心の中で慌ててると、右隣の部屋から奴良リクオ君の声が聞こえて来た。

「首無ー、どうしたんだよ……」

声がした方に目をやると、障子の合間から奴良リクオ君が目を擦りながら、顔を出していた。
そして、私の存在を認識すると目を丸くして、指を差しながら驚きの声を上げた。

「どうして有永さんが、ボクん家にいるのー!?」

いやいやいや、奴良リクオ君。妖怪化したキミが連れて来たのですよー
でも、そーいえば序盤は夜リクオ君の記憶無いんだったなー……

記憶が無い奴良リクオ君からの助けは望めない。
私は驚き慌てふためく奴良リクオ君を見ながら、乾いた笑い声を零した。

どうなるの。私。
もしかして、不審者として警察に突き出される?
いや、ここは、妖怪が住む屋敷だし……もしかして、妖怪のエサにされる!?

不安にドキドキしていると、首無さんが不思議そうに奴良リクオ君に問うた。

「若。このお方は若のお知り合いですか?」
「あ、うん。そうなんだ!」

そう言うと、私の方に早足で歩み寄って来るとグッと右手首を握られ、引っ張られた。

「有永さん! ちょっとコッチに来て! あ、首無は入ってきちゃダメだよ!」

そして、隣部屋へ引き込まれた。
障子をピシャリと閉めた奴良リクオ君は、はあ、と深い息を吐き出す。
そして、神妙そうな顔で私をジッと見つめると堅い口調で聞いて来た。

「……見た?」
「え?」

何を?

問うてる内容が判らず、首を傾げると、ホッと安堵の息をついた。
そして、さっきとは打って変わった口調で話し出した。

「いや、なんでもないんだ。それより有永さん。なんでうちに居るの?」
「えっと、昨夜銀髪の人に助けられて、ここに連れて来られたんだけど……」
「銀髪? 誰だろ、ソイツ……」

はて? と首を捻る奴良リクオ君。
考えるが思い当たる人物が居なかったらしく、カラスに聞いてみるか……と小声で呟いた。
そして、私に座布団を勧め、ちょっと待っててと言い置いて、部屋を出て行った。

と、流れ的に自分の居場所がハッキリしたので、お母さんに連絡しても訝しがられる事は無いという事を思い出す。
私は、その場から立ち上がると元の隣部屋に戻り、携帯を手にし、家の電話番号を押した。

しかし、誰も出ない。
何度鳴らしても出ない。

どうしたんだろ?
お母さん……?







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