全速力で走る。
無我夢中で走る。
道が続く限り止まる事なく、走った。

逃げなきゃ、逃げなきゃ!

実はこの身体に生まれて、前よりも走るのが速かった。
持久力もある。
私は街灯が照らす薄暗い道を走り続けた。
しかし、不思議にも近くにあるコンビニの店の光が見えない。
走っても走っても住宅街の道がずっと続いていた。

「ぜっ……、はっはっ……はぁ」

5分程走り続け、息が上がる。

も、もう追いかけて来ないかな?

私は立ち止まると、膝に両手を付き荒い息を整えながら、後ろを振り向いた。
すると、ガシッと左肩をしわくちゃな手から掴まれた。
後ろにはニタァと不気味な笑みを湛えたさっきのお婆さん。

「ひっ」

恐怖に息を飲む。
私を逃がすまいとするように、肩を掴むその手に力が籠った。
左上腕部の横に、ぶ厚い鉈が添えられる。

「逃がさないよぉ〜?」

恐怖で足が竦み、頭の中が真っ白になる。

なんで、なんで、なんで!?
なんで、ここで、私が殺されないといけない!?
嫌、嫌だ、死にたく、ない!

私は必死で身体を捻り、鉈の柄を掴む。
しかし、不気味なお婆さんの力は強く、柄が離れない。

「大人しくおし〜」

地獄の底から聞こえて来るような声。必死な私はそれに構わず、左肩を掴む皺だらけの手に思い切り噛みついた。
だが、肩を掴む力は弱まらなかった。
掴んだ鉈も強く引っ張られ、手から離れる。
そして、不気味なお婆さんは大きく鉈を振り上げた。

「ほーれぇ〜」
「っ!」

悲鳴を飲み込みながら、次に来る痛みを覚悟して、両目を固く瞑った。
しかし、数秒経っても痛みはやって来なかった。
その代わり、ガランガランッ、ガラガラ……と重たい物が地面に転がり落ちる音が響く。

「……、?」

そっと目を開け、ぎこちなく後ろを見やると、鉈を持っていた不気味なお婆さんの腕が無くなっていた。
だが、血は出ていない。人間ではない、と判る。
不気味なお婆さんは驚愕に目を瞠り「うぐぉおお…」と奇怪な呻き声を上げる。
と、低い艶のある声が不気味なお婆さんの後ろの方から聞こえて来た。

「オレのシマで何やってやがる……」

だ、れ?







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