夜道を街灯が照らしている。その中を私は我が家へ向かってテクテクと歩いていた。
肩甲骨まで伸ばしたストレートの黒髪が風を受けてサラリと靡く。
頬にかかった数本の髪の毛をどけながら、私は重い溜息をついた。

怒られるよねー。
いや、暗くなったの気付かずに、いつまでもファーストフードで皆とおしゃべりしてたのが悪いんだけど。

私はもう一度、はああ、と溜息をつく。

今日はお父さん味方になってくれないよね。自業自得だから…。
いや、でも、前世、本大好きッ子だった私に萌えの話題を振られたら、語らねばいけないでしょう!
長時間話しをしてしまったけど、その内容に悔いなしっ!
カナちゃんは、何の事か判らず、キョトンとしてたけど!

私は歩きながら、片手をぐっと握り締めた。
と、電灯の下にあるゴミ置き場に、黒い物体が置かれていた。
人間が蹲っているようにも見える。

あれ?ゴミ置き場には、黒い袋って置いちゃいけないんじゃなかったっけ?

そう思いつつ、歩きながらもそれを見ていると、それはもぞもぞと動き始めた。

え?

一瞬心臓が飛び跳ねてしまったが、動きはすぐに止んだ。まるで何事もなかったかのように。

もしかして、野良猫が潜り込んでた?

黒い物体から2メートル程離れた地点で、足を止め、じっと目を凝らして見るが、何も異変は無い。

野良猫どっか行った?
それとも、見間違いだった?

訝しげに思いつつも、私は再び歩きだした。
と、黒い物体を横目で見つつも通り過ぎようとしたら、後ろから肩をぽんっと叩かれる。
誰だろう?と振り返ると、そこには着物にもんぺを履き、割烹着を纏った人の良さそうなおばあさんが立っていた。
背中にはカゴを背負っている。
おばあさんはニコッと笑うと口を開いた。

「足いるかい?」
あし?

意味が判らず首を傾げると、おばあさんはズイッと顔を近付けまた同じ言葉を繰り返した。

「足いるかい?」

もしかして、何かの『足』っていう意味なのだろうか?
例えば、豚とか鹿とか猪。

「いえ、いいです。遠慮します」

私は苦笑しながら、手を横に振った。
ナマモノ持って帰ったら、きっと怒られる。
と、お婆さんはスッと顔を俯かせた。そして右手をカゴの中に入れる。
スウッと取り出したのは、鉈、だった。

「それじゃあ、嬢ちゃんの足を貰おうかねぇ〜」
え?

顔を上げたお婆さんは、ニタァと気味の悪い笑みを浮かべた。
危険信号が頭の中に点滅する。

「そぉらぁ〜!」

お婆さんは取り出した鉈を大きく振り上げる。

「っ!!!!」
な、に!? 
殺される!? 嫌っ!!

目を見開いた私は、身を翻すとダッシュで逃げ出した。








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