今日から2学期が始まる。久しぶりに乗る電車は、なんだか億劫に感じた。
でも、更に気が重くなる事がある。

私は長く長く長ーく溜息をついた。

「はぁぁぁぅ……。終わらなかったよー………」

そう。夏休みの宿題が終わらなかったのだ。
夏休みの宿題の数学プリント。
真っしろしろ!

「始業式の日に持っていくものを書いたプリントの中に、夏休みの宿題があったけど…」

私は肩に掛けたカバンに視線を落とす。

「持ってく物の中に宿題があったって事は、提出しないとダメって事で…」

真っ白な宿題を提出した後の顛末が頭の中に浮かぶ。

「絶対怒られる…。うううっ、怒られるのいやーっ」

どうしようどうしよう!

「廊下に立たされる? それとも宿題倍出されるー?」

頭を抱えて、ぐるぐる悩んでいると、ふいにピンとあるひらめきが生まれた。

「あ! プリント無くした事にしちゃえばいいんだ! よっし! 私さえてるー!」

やはり、人間極限まで追い込まれると、良い閃きが生まれる!

浮世絵駅に着くと大量の数学のプリントを、まとめてクルクルっと丸め、ごみ箱へぽいっと放った。

「ふっふっふっ、ミッションこんぷりーと! やっふー!」

そして、足取り軽く、浮世絵中学へと向かった。


久々の教室に辿り着くと、肌の色が小麦色に変わった友人2人、そして相変わらず色白のカナちゃんと合流した。
ちなみに私の肌はあまり焼けてない。
花火大会以降、だらだらと涼しい部屋で、快適な毎日を送っていたのだ。
あ、一応、海にも行ったけど、そんなに泳がなかったんだよねー。

友人の一人が、私の肌をツンツクと突きながら、口を開いた。

「やだ、舞香、あんまり焼けてないじゃん。カナはモデルだから判るけど、どこも行かなかったのー?」
「えー? 一応海は行ったよー?」
「そうなのー?」

不思議そうな顔をする友達の横で、カナちゃんが首を傾げた。

「私も一緒に海で泳いだわよ?」

そうなのだ。カナちゃんとも海に行ったのだ。
楽しかったなー、と思いを馳せていると、目を丸くした友人たちは声を揃えて言い放った。

「「うっそ! カナ、全く焼けてないじゃん!」」
「泳いでるのに、なんでー!?」
「UVケアしても、少しは焼けるよ!?」

絶対焼けない、ヒロインマジック!!!

ワイワイと4人で日焼けについて討論(?)していると、ふいに後ろから「舞香ちゃん」という声と共に右肩をトントンと叩かれた。
ん? と振り向くと、そこにはリクオ君が立っていた。
数日ぶりなだけなのに、ドキンッと大きく心臓が胸打つ。

「わ、リクオ君っ!?」
「ハハ…、ごめん、突然声かけちゃって」

苦笑する姿に、思い切り首を横に振る。

「全然大丈夫! な、なに? リクオ君!」

うああっ、こうしてるだけでも、心臓が飛び出る飛び出るー!
諦めるって決めてるはずなのに、なんで心臓こんなに騒がしいのー!
バクバクが止まらない。
そんな私にリクオ君は紙の束を差し出した。

「はい、これ、舞香ちゃんのだよね?」
「はえ? 私の?」

なんだろう? と紙の束を受け取り、開いてみると…ゴミ箱に捨てたはずの数学プリントが現れた。

「ぬえぇええええ!? 捨てたはずー! じゃなかった、なんで私に!?」
「え? だって、一番初めのプリントに舞香ちゃんの名前書いてたから、間違って捨てたのかなって」
「!!! 消すの忘れてたー!!」
「え?」
「い、いや、なんでもない、なんでもないよ!」

私は冷や汗をかきながら笑顔を返す。
そして、さっきとは違う意味で、心臓がぱくぱくし始めた。
そんな私の手元を友人2人が覗き込む。

「おー。解答欄真っ白」
「舞香、違う意味で真っ白だね!」
「うああっ、怒られるー! 答え写させてーーっ!」
「いいけど、もうすぐHR始まるから無理なんじゃない?」

友人の無常な一言で、私はその場に撃沈した。
そして、予想通り先生から怒られ、罰として雑用の手伝いをさせられた。

「駅じゃなくて、別のところに捨てれば良かったーーっ」







- ナノ -