「あ、見つけましたー! リクオ様ーー!」

はえ?

心臓が破れそうでどうしようもなくなっていると、氷麗ちゃんの可愛らしい声がどこからか聞こえて来た。
声のした方へ顔を向けると、花火に照らされた樹木の間から氷麗ちゃんが現れる。
片手にかき氷の入ったカップを持ち、もう片方の手を大きく振りながら、こちらに向かってパタパタと駆け寄って来た。

ま、ま、拙いー! リクオ君と手を繋いでるとこ見られたら怒られる!

さっきとは違う意味でドキドキしながら、私は慌ててリクオ君の手から自分の手を引き抜こうとするが、きつく握られてて抜けない。

「ちょっ、リクオくん!?」
「? どうしたの? 舞香ちゃん」
「いや、なんて言うか、その…っ」

あわあわする私とリクオ君の前に氷麗ちゃんはやって来た。
しかし、予想を裏切り、氷麗ちゃんは片手を腰に当て眉を怒らせながら、リクオ君に向かって口を開いた。

「リクオ様! 一人で勝手に行かれては困ります!」
「あはは。ゴメン、ゴメン。でもどうしてここが判ったの?」
「女のカンです!!」

握り拳を作り力説する氷麗ちゃん。

「ハ、ハハ。そうなんだ……」

と、再びドーンと花火が重厚な音と共に夜空を明るく照らす。
明るく照らされクッキリと輪郭が露わになった氷麗ちゃんの膨れっ面な姿は、とても可愛かった。

氷麗ちゃん。すごい可愛いなー

ふと考えてみると、そんな可愛い氷麗ちゃんは本来原作ではリクオ君と両想いになる。
ぬら孫ヒロイン氷麗ちゃん。
リクオ君に忠実で、リクオ君の事をいつも中心に考えてて…

あ。無理。
私、そこまでリクオ君中心の生活出来ない。
漫画も諦めきれないし、何より肉よりリクオ君を優先出来ない!!! 絶対、無理!!

…って事はこんなに胸が痛いほどリクオ君の事好きだと思ってるのは、気のせい……?

ちらりとリクオ君の顔を見る。

乾いた笑い声を漏らしながら氷麗ちゃんと話している。
でも片手は固く私の手を握ってる。
その熱が熱くて胸が痛くなる。

でも、これもきっと気のせい。
氷麗ちゃんよりリクオ君好きな人いないし、リクオ君もいずれきっと氷麗ちゃんの事好きになるんだ…。原作みたいに…。
うん。
そうだ。
私のこの好きって気持ちは、気のせいっ!
きっと、気のせい!!

そう考えを改めたのに、何故か胸が酷く痛い。
痛くてたまらない。

ちょっ、なんで痛いのー!?

「若、だからその手は……って、有永ーー!? なんで泣いてるのよー!」
「舞香ちゃん!?」

へ? 泣く?

いつの間にか俯いてた顔を上げると、ぐるぐる目を丸くして慌てる氷麗ちゃんと、心配げに私を覗き込んで来るリクオ君の姿が目に入って来た。

泣いてもないのになんで慌ててるんだろ?

不思議に思いつつも空いてる方の手で自分の目元を触ってみると、しっとりと濡れていた。

「あれ? なんで??」
「有永…もしかしてお腹イタですか?」
「腹痛!? 氷麗! 鴆を…って、クソ、ここは清継君家だった! 朧車呼んで! 早く!」
「は、はいぃぃい!」
「舞香ちゃん、鴆に診せるまで我慢できる!?」
「いや、お腹痛くないから大丈夫…」
「吐き気は!?」
「は、いや、ないけど」
「ほら、ボクに寄りかかって!」

あっけに取られているうちに、あれよあれよと朧車に奴良家まで運ばれ、人相の怖いお医者さんに診せられた。

「あー、リクオ。コイツどっこも悪くねぇ。もしかして食い過ぎじゃねぇか?」

呆れたような口調でそう診断を下された私だったが、念には念を、と敷かれた布団に押し込まれ寝かされた。
そして、連絡を受けたのか、清継君家の前で待ってて貰ってたお父さんが奴良家に迎えに来た。

って言うか、なんで食べ過ぎって言う診断が出たんだろ?
良く考えてみると食べて無いような気が…って、あ!!!

「鶏肉ーーー!」

鶏肉の串10本とリクオ君から貰った肉、しっかり持ってたのに、いつの間にか消えている。

どっかで落としたーー!?
どこ!?どこで!?
はっ!? もしやリクオ君に声掛けられて、吃驚して尻餅付いた時ーー!?

「リクオ君のバカーーー!」

車の中で、私は吠え嘆いた。








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