ズラリと並ぶ屋台。
そして、各店を繋げるように連なっている赤い提灯。これは灯りとして灯されたものだと思う。
お店の周りには白い煙が立ち込め、肉や海鮮類の焼ける香ばしい匂いが鼻を嫌と言うほど擽った。

「え? え? 普通家での花火大会ってこんな感じだっけ?」

目を見開き思わず呟くと、横に居たカナちゃんがフルフルと首を横に振る。

「普通は線香花火とかロケット花火をするかな……?」

口元に手を当てながら答えるカナちゃん。

「だよねー!」

私はうんうんと大きく頷き返す。

って言うか、屋台を招集するなんて思ってもみなかったよ!
恐るべし! 清継君家の財力!!

そう思っていると、島君が先頭に立っている清継君に向かって感激したように大声を上げた。

「清継君、凄すぎっす!」

感激したように目を輝かせる島君に清継君は、自慢げな表情で振り向き、人差し指をチッチッチッと揺らした。


「ハッハッハッ、大袈裟だなぁ、島君。普通の花火大会にそんなに驚かないでくれたまえ」
「いや、ホント凄いっすよ! 誰も真似できないっす!」

興奮する島君の横で怠そうに頭を掻く巻さん。
そして半眼で呟いた。

「金持ちでもフツーここまでするかよー、凄い通り越してんじゃん」

鳥居さんはそんな巻さんの肩をポンッと叩き、宥める。

「巻。清継君だから仕方ないよ」
「そりゃそーだけどー」
「それより何する? 金魚すくい? あ! わたあめ!」
「〇ィトンのバックとか無いのかよー」

巻さんはぶつぶつ文句を言うが、鳥居さんはそんな巻さんの腕を掴み、ゲタの音を鳴らしながら屋台へと突撃した。

行動、早っ!

吃驚していると気を取り直したらしい清継君が言葉を続けた。

「さあ、君たち! 今夜はぞんぶんにボクん家の花火大会を楽しんでくれたまえ! 焼き鳥、りんご飴当いろんな屋台もあるよ!」

その言葉に私は周りをぐるっと見回してみる。
確かに、色々な屋台が並んでる。
焼きそばにとうもろこし。焼き鳥に・・・・って、え。

「うそ!」
「どうしたの!? 舞香ちゃん!?」

カナちゃんの問いに私は震える指で焼き鳥屋を指さした。

「な、名古〇コーチ〇使った焼き鳥が50円ーー!」

名〇屋コー〇〇とは、あの有名な日本3大地鶏のうちのひとつだ。
有名なので、すごくお高いと思うのに、一串たった50円!
値札絶対間違ってる!

私は急いで焼き鳥の屋台に近付くと、どこかの立派な料亭らしき制服を着たおじさんに慌てて話しかけた。

「おじさん! 〇古〇コーチンの焼き鳥なのに50円になってる!」
「いいんだよ。お嬢ちゃん。十二分な報酬をこのお屋敷から貰ってるからね」
「報酬?」

ん?
ってことは、清継君。ただお店を招いただけでなく、報酬を払って招いたって事?
しかも、お高い焼き鳥を低価格設定で売っても良いような、凄い報酬を!
んでも、そんなに清継君払えるんだろか?

「やっぱ金もちだからかなー? すっご!」

そう呟く私に屋台のおじさんが声を掛けて来る。

「お嬢ちゃんも買ってくかい?」
「はいっ!! 10本くださーい!」

にこやかなおじさんに問いに私はすぐさま頷き片手を上げた。

「へい、まいど!」

焼き立ての焼き鳥を紙袋に入れてもらい、手渡される。

うーん、いい匂い!
早く食べたい!

「どっかゆっくり食べる所あるかなー?」

ほくほくしつつ周りを見回すと、何故だか周りに知らない大人の人達が数人出現していた。

「あれ? さっきまで私達しか居なかったのに?」

大人の人達は皆浴衣を着、背中にうちわを差し、楽しそうに歩いていた。

「花火大会、私達だけの参加じゃなかった?」

まあ、そりゃそうか。
普通に考えて私達の為だけにこんな大掛かりな設備設置しないよねー

そう思いつつ他にも肉が無いかキョロキョロしていると、急に目の前に手の平大の紙袋が現れた。

「ん?」

とリクオ君の声も耳に聞こえて来る。

「はい、舞香ちゃんの好きそうな唐揚げがあったよ」
「え?」

顔を上げると、にこにこしながら唐揚げが入った袋を差し出すリクオ君が居た。
その顔を見た途端心臓がドクンッと痛いほど飛びあがる。

リ、ク、オ、君ーー!?

再び脳裏にキスやら抱きしめられた感触やら浮かび上がる。
羞恥に平静だった心臓が激しく打ち出す。
ドクンドクンが止まらない!
顔も熱せられたように熱くなる。
耳もすっご熱い!

うわー、うわー! 私の心臓、ご乱心ー! 静まれ! 私の心臓ー!

私の平静な部分が乱れに乱れる心臓に言い聞かせるが、更に色々思い出し、恥ずかしさやらなんやらで思考が混乱の渦に落ちて行った。

「あ、あ、あ、ありひゃと!」

私は本能的に目の前に差し出された袋をバッと奪い、そのまま駆け出した。

「舞香ちゃん!?」

後ろからリクオ君の驚愕した声が上がるが、それどころじゃない!
私は混乱したまま無我夢中で前に向かって足を動かし続けた。








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