お父さんと一緒に浮世絵町に帰ると、いの一番にお母さんから抱き締められた。

「お、お母さんっ!?」
「舞香……、舞香……!」

震える声で抱き締めるお母さんに、なんでここまで心配してたんだろ?と首を傾げていると、お父さんが理由を教えてくれた。
京都での異変のニュースが、東京でも流れていたそうだ。
妖怪の事は報じられてなかったが、謎の連続家屋崩壊とかは報道されたらしい。
私は謎の家屋崩壊という言葉に首を捻る。

花開院の屋敷が半壊した事がニュースで流れた?

でも、花開院家だけだから、”連続”は付かない。
と、原作で全裸の晴明が魔王の小槌を京都の町に向かって一振りし、その衝撃波かなにかで複数の建物があっという間に崩壊する場面を思い出した。

もしかして、現実でもそれが起こった!?

背中へにゾッと震えが走る。
漫画の中では何も考えずにその場面を読めるけど、現実にはその耐え物の中に生きてる人間が居るのだ。
きっと大勢の人達が亡くなったのかもしれない。
でも、晴明はその事に何も感じていないのだ。
無慈悲に人間を殺戮する晴明の所業に、ふつふつと憤りが胸の奥から沸いて来る。

そんな私に構わず、体裁を整えたお母さんは、次にお説教を口にし出した。
反対したのに、京都に行くからだろう、と。
反論は出来なかった。
目的の肉も食べれず、ただ戦いに巻き込まれただけだ。
何の為に京都に旅行へ行ったのか判らない。

「ううーっ、踏んだり蹴ったりー!」

私は、自室に戻ると布団を被り、ふて寝した。



それから2日後の夜の事だった。
夕ご飯を食べて、自室のベッドで横になり、漫画をじっくりよ読みふけっていると、ベッドの近くにある窓ガラスが、外からコンコンと叩かれた。

ん? 何?
 
不思議に思いつつベッドから起き上がり、カーテンを引くと目の前のガラス窓が突然ガラッと開かれた。

「うわっ!?」

私は突然の事に思わずのけぞった。
そんな私の前に現れたのは、妖怪の姿に変化したリクオ君だった。

「よう」

現れた夜リクオ君は、羽衣狐戦での怪我が酷かったのか、頭や首元に包帯を巻き、頬に絆創膏を張り付けていた。

「リ、リクオ君!?」
なんでここに!?

吃驚しすぎて、言葉が続かない。
心臓のバクバクも治まらない。

と、夜リクオ君は「よっ」と言いつつ、窓枠を乗り越えそのまま部屋の中に入って来た。
私は思わず後ろに後じさる。
そんな私に向かって、夜リクオ君は腰に片手を当てると、こちらに視線を向けた。

「あの後、さっさと先に帰るなんざ、ひでぇぜ。舞香」
「え? あ、だって、お父さんが迎えに来たから」
「それにしちゃあ、一言あってもいーんじゃねぇか?」

片眉を上げ、問うて来る夜リクオ君。

え? 何?
私、責められてる?

そんな夜リクオ君が、巨乳好きな事を思い出す。

「ぬーっ、巨乳好きのリクオ君に、何も言う事はないよっ!」

ぷいっと横を向くと、突然両手首を取られ、ベッドに押し倒された。

「ぬわっ!? な、なに、何!?」

吃驚し過ぎて、心臓が破裂しそうなほど、鼓動を打つ。

口を開くときっと心臓が飛び出る!!

乱れる心臓の音に戸惑っていると、夜リクオ君は私を押し倒したまま、真顔で口を開いた。

「それ、撤回しろ。オレは巨乳好きでもオッパイ星人でも無ぇ」
「だ、だ、だって、本当の事、でしょ! お風呂の中で……お風呂の中で、淡島の胸じっくりガン見したんだよね!」

淡島の胸をガン見する夜リクオ君を想像すると、なんだか嫌な気分になって来る。
そして、胸の奥が小さく痛む。
と、手首を握る力が更に増した。

「違ぇ」
「っ、違わないっ! うー、はーなーしーてーっ!!」

押さえつけられた腕を外そうともがくが、外れない。

くうっ、これが男と女の力の差ーっ!?

「リクオ君のバカバカバカッ! かばーっ!」

それでも諦めずじたばたもがいているとリクオ君が更に顔を近付けて来た。
そして低く艶やかな声が耳元で響く。

「もしかして……舞香。嫉妬してんのか?」

…………、は?







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