リクオ君が斬られる!
いやだ!

数メートル程先に佇み上を見上げていた氷麗ちゃんは、夜リクオ君を救うべくその場を駆け出した。

私も!

リクオ君の傍に駆けつけたくてお父さんの腕の中から抜け出し、片足を床に着けた。
と、斬られそうになった夜リクオ君の前にセーラー服を着た長い黒髪の少女が、庇うように立ち塞がる。
声を発する暇も無く、その少女は夜リクオ君の代わりに晴明から袈裟懸けに斬られた。
斬られた箇所から、血飛沫が舞う。

え?
あれって……

その場で目を瞠りながらも原作の知識を総動員する。

確か、確か、羽衣狐の抜けた本来の身体の持ち主、山吹乙女!

と、負傷した山吹乙女を抱きかかえ、その山吹乙女に強い口調で何かを問うている夜リクオ君に、晴明が再び不気味な刀を振り上げる。

「リクオ君! だめっ! 後ろ!」

思わず腕を伸ばすが晴明の動きは止まらない。
迫りくる刃に気付いた夜リクオ君が目を瞠る。
が、あと少しで刃が夜リクオ君に届くという所で、晴明の腕がドロリと溶けた。

原作通りだと、身体が現世に馴染んでないから、崩壊した?

晴明の動きが止まっている間に、夜リクオ君の元へイタクや淡島、そして氷麗ちゃんが集う。
晴明は何か一人ごちると、二本の指を上げる仕草をした。
それと共に巨大な門のようなものが轟音を上げ城の中央に現れた。
そう、何か揺らめく炎が鬼の顔を形取り、大きく開けた口の中は異様な空気が渦巻いている。
と、お父さんが苦々し気に口を開いた。

「地獄の釜の蓋以外の場所を開くとは……、由々しき問題だね……」
「え? 地獄の釜?」

思わず後ろを振り向いた私の頭上に、晴明の声が重々しく降る。

「千年間ご苦労だった……。鬼童丸……、茨木童子。そして京妖怪達よ。地獄へゆくぞ。ついてこい」

その声が聞こえたのと同時に、今度は近くに何かが着地するような音がした。

ん?

再び前を向くとそこには、顔に板を張り付けた茨木童子が居た。

い、茨木童子ー!? なんでここに現れてんの!?

思わず後じさるとお父さんが、私を庇うように前に出た。

「お父さん」
「大丈夫だよ」

お父さんは私に向かって笑顔を向ける。

いやいやいや、待って待って。大丈夫じゃないよ! お父さん!

「あれって妖怪だよ!? 強かったよ!?」

私はゆらちゃんの家で襲われた時の事を思い出しながら、茨木童子を指さした。

「女ぁ。一緒に行くぞ」

茨木童子はお父さんの存在を無視し、私に話しかけて来た。

って、一緒に行くって……、行先はやっぱ地獄!?
無理無理無理。

「そこ漫画無さそうだから、無理っ!」

私はお父さんの服を掴みながら、茨木童子にお断りを入れる。
と、茨木童子は顔を顰めた。

「はぁああ? なんだぁ? そのまんがってやつぁあ?」
「乙女のバイブル!」
「何か違うような気がするよ。舞香」

私の言葉にさりげにお父さんが突っ込む。

ごめんっ! そこは見逃してっ! お父さん!

「オレが傍に置いてやるんだ。それだけでも有難いだろうが」

傍に置く? 何言ってるのか、良く判らない。

「全然、全く有難みなんかない! それにっ、傍に居るならリクオ君の方がいい!」
「はぁああ? 鵺に一太刀も入れられなかった、あのひ弱な奴かぁあ?」

と、銀色の煌めきが突然上から降って来た。
それはあちらこちら傷付いたボロボロの夜リクオ君だった。
夜リクオ君は、私とお父さんの前に立つ。

「おい……、こいつに何してやがる」

うおえ!? リクオ君!?








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