朧げな意識が白い空間の中を彷徨う。
と、どこからともなく声が聞こえて来た。

―――ごめんよ、舞香。
―――結界の条件設定が甘いようだったね。

この声は………、お、とうさ、ん?

そう認識した途端、後頭部がズキズキッと強く鋭い痛みを発した。

痛い! 痛いのに声が出ない!
何故か腕も動かせない。

痛い! 痛いーっ!

心の中で叫んでいるとふいに痛む部分が暖かいナニかに包み込まれ痛みが和らぐ。
痛みが和らぎ、ほっと息を付くと、何か轟音のような音が聞こえて来た。

……? 何? なんの音?

と、ふいに耳元でハッキリした声が聞こえて来る。

「聞こえるかい? 舞香」

急速に意識が現実感溢れる世界へと浮上した。
肌に微かな風を感じる。
そして、「山ン本!?」「山ン本五郎左衛門だと……!?」という騒めき声も聞こえて来た。
薄っすらと目を開けると目に入って来たのは、優し気な笑みを湛えたお父さんだった。

「あ……、れ? お父さん……?」

私が声を発すると、お父さんは凄く安心したかのように、ほっと大きな息をついた。

「間に合ったね……」
「まにあった………?」

そうオウム返しに言葉を紡いでいると、意識が徐々にハッキリして来た。

「あ……? 私、さっき氷麗ちゃんが襲われそうになったのを見て、それはだめ、って思って……」

そうだ。無意識に身体が動き、氷麗ちゃんを庇って覆い被さったとたん、後頭部に重い衝撃が来たのだ。
あの後、目の前が真っ白になって、そして気が付くと目の前にお父さんが居る。
お父さんは片膝を地面に付け、腕の中に私を抱いていた。

「お父さん、なんでここに……?」

それにここ、どこ?

周りを見回すと襖や障子そして壁や廊下は半壊状態だ。
すごいボロボロ。
でも城だった事は判る。
城って事は弐條城。

「なんで弐條城がボロボロに……」

と、ふと原作を思い出した。
そう言えば弐條城って羽衣狐が鵺ヶ池から上空に飛び出す場面の時に半壊状態になったよね。
現実でもやっぱりそうなったのかな?

私は城の壊れた隙間から上空を見上げた。
遥か上空では緩やかな白い髪を風に靡かせながら刀みたいなのを持って浮かぶ全裸の男が居た。

ぜ、ぜ、全裸ぁーっ!?

原作通りだと多分あの男が晴明なんだろうけど、実際全裸を見ると思わず目が点になってしまう。

「せめて下履いてっ!」

思わず突っ込むとふいにお父さんから頭を撫ぜられた。

ハッ!? そう言えばいつの間に全裸の晴明が出現したのか気になるけど、お父さんの事も気になる! 

「お父さんっ!」
「なんだい?」
「なんでここに居るの!? ここ京都だよ!? 東京じゃないよ!?」

再び問うとお父さんは困ったように笑った。

「ボクの所為で舞香が死ぬところだったからね。飛んで来たんだよ」
「は? え? しぬ?」

え? え? なんで?

「私ピンピンしてるよ? どこも痛くないしっ!」

そう言うとお父さんは柔らかく笑った。

「そうだね。身体の損傷部分はきちんと元に戻したからね。吐き気とか無いかい?」

は? え? 損傷部分を戻す?

「そ、それって治癒能力ーっ!? お父さん、そんな力持ってたのー!?」
「緊急事態だったからね。芙蓉には内緒だよ?」
「え?」

どゆ事?

はて? と首を傾げると、にこっと微笑まれた。

お父さんって前世僧侶だったんだよね?
だから結界を張る能力があるっていうのは何となく納得できる気がするけど、治癒能力っていくら僧侶でも持ってない。
現世に生まれた時、血筋か何かでその力を持ったっていう方が納得がいく。
ん? と言う事は……

「ね、お父さん。私も治癒能力持ってんの!?」
「ははは。どうだろうね」

にこにこと笑うお父さん。

おぉ!? どうだろうね、と言う事は可能性はあるって事だよね!

「ね、ね! どうやるの!? 教えて! お父さんっ!!」

目を煌めかせて詰め寄っていると、氷麗ちゃんの大きな悲鳴のような叫び声が聞こえて来た。

「リクオ様ァア!!」

え!? リクオ君!?

慌てて上の方を見上げる。
半壊した梁の上から晴明に刃を振り下ろす夜リクオ君が居た。
晴明はその刃を指先一つで止めると、刃はあっという間に無数のヒビが入り、霧散した。
そして、持っていた刀を晴明は夜リクオ君に振り上げる。

「リクオ君!!!」








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