「いーやーっ!! 私、戦闘素人ーーっっ!!!」

すると夜リクオ君は私の両肩に手を置き、そのまま私の身体を横に居る氷麗ちゃんに渡した。

「ん?」
「リクオ様!?」
「舞香は戦えねぇんだ。氷麗、頼むぜ……」

ぐるぐる目を大きく見開き驚く氷麗ちゃんにそう言うと、左手に持っていた刀を右手に持ち替え、チャキッと鍔を鳴らせた。
そんな夜リクオ君に鬼童丸は鬼が群がる羅城門の前に立ち、黒い靄を身体から立ち上らせながら口を開いた。

「弐條城は我ら京妖怪の積年の怨念が生んだ幻の城……。かつて我らの住処だった羅城門で貴様らを葬ってやろう」

その言葉が終わると共にその場を強く蹴ると、後ろに居る大量の鬼達と共にこちらへ襲って来た。

「うわわわっ! 来た、いっぱい来たよ!?」
「有永。仕方無いから守ってあげる。私から離れないで!」

氷麗ちゃんは私を背中に庇うと口から吹雪を吹き出した。
すると襲い掛かって来た2匹の鬼の身体がカキンッと凍る。
しかし今度は斜め横から3匹一斉に襲い掛かって来た。

「風声鶴麗ーっ!」

氷麗ちゃんの放った冷気はこの間のように3匹を瞬く間に氷柱へと変えた。
しかし、数メートル先からまたこちらにやって来る鬼が居る。

「多いわね……。ちょっと有永。四国の時みたいに雷を操れないの?」

氷麗ちゃんは氷で薙刀を作ると、後ろに居る私に聞いて来た。
私はその問いにぶんぶんと首を横に振る。

「え、えぇえ!? あれっていつの間にか出てて、操り方知らないっ!!」
「もうっ! 役に立たないんだからっ! えいっ!」

接近して来た鬼を氷麗ちゃんは薙刀で薙ぎ払う。
と、少し離れた場所から夜リクオ君の声が聞こえて来た。
 
「イタク! もう一度纏いだ!」
「……。命令するな。リクオ」
「リクオぉ! 今度はオレが協力してやるって!」

夜リクオ君はいつの間にか離れて戦っていたみたいだ。
イタクと淡島は夜リクオ君の背中を守るように並んで鬼と戦っている。

イタクは淡島の言葉に眉を寄せると「オレがやる……」と呟き、身体から黒いものを出した。
それは揺らめきながらリクオ君の背中に吸い込まれると同時に、イタクの身体も輪郭が揺らめき黒いものと一体となって行く。

と、凄い速さで迫って来た鬼童丸が2人を繋ぐ黒い靄を一閃した。
そして振り向きざま振り下ろされた刃はイタクを襲う。

「くっ」

ガキンッと武器同士がぶつかる音が響き渡る。
イタクは素早く背中から武器を取り出し、それで受け止めたのだ。

「イタクッ!」

夜リクオ君の慌てたような呼びかけに、「大丈夫だ……っ!」と言い放ち、イタクは力を込めて鬼童丸の刃を押し返した。
鬼童丸は後ろに飛びずさり距離を取ると夜リクオ君の方に視線を向けた。

「そうか……。父親の業を身につけたか……。あの業はあなどれぬ。しかしまだ未熟なようだな……」
「……」

睨み返す夜リクオ君に、鬼童丸は再び刀を構え更に黒いものを身体から揺らめかせる。

「未熟なうちにワシの本気の畏れで消してくれよう」

と、ギンッと気迫を込めたと思うと黒く揺らめくものが一斉に夜リクオ君に向かった。

「リクオ様ぁっ!」

氷麗ちゃんが悲鳴を上げ駆け寄ろうと身体を動かす。
と、横から傘を被った長髪のお坊さんがその肩を掴み止めた。

「拙僧が行こう……」
「黒……!」

黒こと黒田坊は、僧衣をはためかせて夜リクオ君の元へ向かった。
凄まじい剣戟が夜リクオ君を襲っている。
それをなんとか捌いている様子だったが、徐々に押し負けそうになっていた。
その時、黒田坊が僧衣の下から無数の武器を飛び出させ、夜リクオ君を庇う。
それを見た氷麗ちゃんは、ほっと表情を緩ませた。

その時、横から一匹の鬼が氷麗ちゃんに向かって棍棒を振り下ろして来た。

「だめっ!」

私は思わず後ろから飛びつき、氷麗ちゃんに覆い被さる。
と同時に後ろ頭に凄まじい衝撃が走った。

「有永っ!?」

目の前が真っ白になる。

「ちょっと、有永っ!? なんで私を庇うのよ!」

なんで庇ってしまったのか、私も良く判らない。
氷麗ちゃんの声が遠くなって行く。

「………!!」

最後には何を言っているのか判らなくなり、ぷつりと意識が途切れた。







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