リクオ君の後ろ、壊れた壁の方に目を向けると氷麗ちゃんと長い枝を咥えた淡島がこちらへと駆け寄って来ていた。
淡島の姿を見たとたん、先程攻撃された事を思い出す。

っっっ!!! に、逃げないと!!

慌てて夜リクオ君から身体を離そうとするが、腕は掴まれたままだ。

「ごめんっ、腕、離してーっ!」

だが外れない。
夜リクオ君は後ろからの気配に気付かないのか、訝し気にこちらを見ているだけだ。

うわわわっ、また攻撃されるーっ!!

心の中で悲鳴を上げていると見る間に2人はこちらに辿り着いた。
リクオ君の後ろに立った2人は同時に口を開く。

「ちょっと有永……、さん! どうしてここに居るのよ! 花開院家で大人しくしてたんじゃなかったの!?」
「リクオぉ、京妖怪掴まえたのかー? そいつすばしっこいこら逃がすんじゃねーぜ!」
「へ?」「ん?」

と、2人は何故か顔を見合わせた。
そして、淡島は片眉を上げると私を指さす。

「こいつ京妖怪じゃねーの?」
「え? 違いますよ? 有永はリクオ様のご学友です」
「はぁああああっ!? これが学友ーっ!?」

素っ頓狂な叫び声を上げる淡島。

これって何。これって。
はー、でも良かったー……

私はほっと胸を撫ぜ下す。

やっと、誤解が解けた。
ありがとー!! 氷麗ちゃん!

心の中で氷麗ちゃんに感謝の言葉を投げかけると、壁の向こうからまた数人駆けて来た。
先頭の傘を被った人と、首を浮遊させている顔の良い人が声を張り上げる。

「若! どうされたのですか!?」
「若!!」
「黒、首無……」

夜リクオ君は後ろを振り向き呟く。
と、はっと何かに気付いたような表情をした氷麗ちゃんが夜リクオ君を見上げ、そして私に視線を移すと厳しい視線を向けて来た。

ん? どしたの? 氷麗ちゃん。

と、この前奴良家にお見舞いに行った時に言われた言葉を思い出した。

そう言えばリクオ君に近寄るなって言われてた!?

京都に来て助けてくれ、花開院家で普通に一緒に過ごしてたから氷麗ちゃんがリクオ君の事で怒っている事を忘れていた。

私って今もろに、夜リクオ君と接近してるー!?
しかも、がっちり腕掴まれてるしっ!

「ちょ、ちょ、リクオ君、離してって!」

氷麗ちゃんが睨んでるーっっ

「ああ、悪ぃ」

夜リクオ君はやっと掴んでいた腕を離してくれた。
私はほっと心の中で息を吐く。

ふう、こ、これで、睨まれない?

私はそっと夜リクオ君の横に来た氷麗ちゃんを伺った。
だが、私の事は目もくれず、ただただ一心に夜リクオ君を見上げていた。
そして可愛らしく両手をぐっと握り込むと夜リクオ君に語り掛けた。

「リクオ様、今は有永さんに構ってる時じゃありませんっ! 早く羽衣狐を見つけ出し倒しましょう!」

が、何故か氷麗ちゃんの言葉に夜リクオ君は、私の方に視線を向けた。

ん? 何?
夜リクオ君が何を考えているのか判らない。
はて?

と、氷麗ちゃんは何かを察したのか、再び口を開いた。

「大丈夫です、リクオ様! 有永さんの戦闘能力は四国の時に証明されてます!」

………、は? ……え? 戦闘能力?
どういう事?
それに、四国? 四国って……えーっ!?

「ちょっ、戦った記憶ないんだけど!」

思わず反論すると、キッと睨まれた。

「なんで記憶に無いのよ! あんなにリクオ様を傷つけたクセにっ!」

その言葉が胸にグサグサ刺さる。
思わず自分の胸元を掴むと、何故か夜リクオ君が横から私の肩ごと身体を抱き込んで来た。

う、え、あ?
り、クオ君!?

突然の事に心臓がドクンッと飛び跳ねる。
思わず夜リクオ君の顔を見上げると、夜リクオ君は平然とした表情のまま、氷麗ちゃんに向かって声を掛けた。

「落ち着け……。氷麗」
「は、はい……、ってリクオ様ぁー!?」

こちらを見てぐるぐる目を見開く氷麗ちゃん。

う、うん。そうだよねー。
近付いて欲しくないのに、近付いてるからだよねー…
でも、なんで肩を抱くんだろ?
友達だから?
そー言えば、仲の良い男友達って良く肩を組むよねー

つらつらと考えていると「舞香。オレの傍から離れるんじゃねぇぜ」という言葉が降って来た。

ん? 離れてはいけない?
ちょっと待って?
今から羽衣狐と対決しに行くんだよね?
そんなリクオ君の傍に離れないように居ろと!?

「無理ーっ!」
「リクオ様、有永…さんもこう言ってますし、ここに置いて行きましょう!」

すかさず氷麗ちゃんが意見を挟む。

待って、待って、ここにポツンと一人置いてかれるのも嫌だー!

「せめて、入口を教えてーっ!」

そうしたら、自力で帰るーーっ!

氷麗ちゃんにそう訴えかけると冷たい目で見返され、フンッと横を向かれた。

な、なんで!?

帰り道を教えて貰えずショックを受けていると、突然背中にゾクッと震えが走る。

え?

思わず後ろを振り向くといつの間にか迫り来ていた黒い影から鈍い光が繰り出され、こちらに向かって一閃された。








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