嗚咽を我慢しながら。リクオ君の胸元をぎゅっと強く握っていると、突然頭の後ろに回された腕に力が籠った。
その力強さがすごく心を丸ごと包んでくれているようで、安心感が胸に広がる。
そしてまた涙が滲み出る。
と、夜リクオ君の優しい声が上から降って来た。

「怖くねぇ。オレが守る……」

オレが守る、オレが守る……

その言葉が耳の奥でリフレインする。

「う、え?」

守る……? 私を……!?
なんで!?

思わず目を丸くしながら顔を上げ、夜リクオ君の端正な顔を見上げた。
朱色がかった金の目は真っ直ぐに私を見つめ返す。

ちょっと待って、ちょっと待って!?

今の言葉で涙が引っ込み正気に戻った私は、今の言葉の意味を考える。

確か今は弐條城での羽衣狐との戦いが始まってんだよね?
その最中、なんで私を守るの!?
それに夜リクオ君が守りたいのはきっと氷麗ちゃん!
あと奴良組の妖怪達!!

私は夜リクオ君の綺麗な目を見ながら、首を横に振った。

「い、いやいや、リクオ君が守るのは私じゃないって!」
「舞香。オレが守っちゃいけねぇ理由でもあんのかい?」
「いや、守って貰えるのは嬉しいけど、でも……」

なんだか、原作と違うーーっ!

心の中であわあわしていると、夜リクオ君は薄い唇の端を持ち上げながら私の髪をわしゃわしゃと掻き混ぜた。

「不安がるんじゃねぇ。オレはウソなんかつかねぇ」
「ちょ、ちょ、ちょーっ!」

髪がもつれるーーっ!

思わず乱れた髪を押さえようと両手を頭の上にやると、スッと顔が近付き「絶対ぇ守ってやる……」と囁かれ、目元をペロリと舐められた。

は、え? え? え?

目元に感じた暖かくも湿った感触に頭の中が真っ白となる。

と、夜リクオ君が「しょっぺぇ……」と呟いた。

あ、あ、あ、
「当たり前ーーっ! 涙だからしょっぱいよ!! て言うか、なんで舐めるのー!!」

舐められたー!
夜リクオ君に舐められたーーっ!

思い切り恥ずかしくなり、顔に熱が籠る。
そんな私の顔を見て、夜リクオ君はくっと喉を鳴らせ小さく笑った。

ぬぬっ……! こんな時なのに、私をからかった!?

うー、と唸る私の腕をリクオ君は取ると、何故かそのまま立たせる。
そして再び先ほどと同じ質問を口にした。

「で、舞香はなんでココに居るんだい? ここは羽衣狐の巣だぜ?」

ん? あぁあ! やっぱりここは弐條城ー!
確信する言葉をありがとう、リクオ君!

心の中で礼をすると、私はここに来た経緯を簡単に説明した。

「うーん? 敵と戦って気絶したかと思ったらここに居て……。なんだか羽衣狐の供物にするために連れて来られたみたい?」

そう。供物。
別名、羽衣狐のご飯。
原作の羽衣狐ってすごく美人さんでちょっと見てみたい気がするけど、会ったとたん口から心臓を吸い上げられるのは、遠慮したい。
痛いのは嫌っ!

そう心の中で呟いていると、夜リクオ君が未だ掴んでいた手に力を入れて来た。

「ん?」

どしたんだろ? と再び夜リクオ君を仰ぎ見ると夜リクオ君は真剣な表情で口を開いた。

「オレがそんな事させねぇ」

その言葉に、心臓がドクンッと大きく脈打つ。

でも、勘違いしてはダメ。
リクオ君は人間も妖怪も傷つけたくない人。
きっとこの言葉もその気持ちから来る言葉だ。絶対にっ!
……でも、そう言ってくれる優しさに感謝しないといけないと思う。

私は気持ちを込めて、夜リクオ君に笑顔を向けた。

「うんっ! リクオ君の傍なら安全だよね! ありがとう!」

と何故かリクオ君は私の頬に手を伸ばし、片手を添えた。

「舞香……」
「ん? 何、何?」

きょとんとしている私に再び夜リクオ君の顔がゆっくりと近付いて来た。

まだ、涙でも残ってる!?

慌てて夜リクオ君の手をどかそうとすると、唐突に夜リクオ君の後ろから女の子2人の声が上がった。

「「あーーっ!!」」

あれ? この聞き覚えのある声は……








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