腕で頭を庇いつつ襲い来る恐怖に再びぎゅっと目を閉じた。
と、またガンッと音がするだけで衝撃や痛みは何も襲って来ない。
どこかで「大丈夫」とお父さんの声がした気がした。
でも、でも、原作でのリクオ君の味方である遠野の2人に攻撃されるなんて、絶望感が半端ない。

もういや、もういや、いやだーっ!

私は目じりに涙を湛えながらそっと目を開くと、そのまま回れ右してもと来た道へと駆け出した。

「あ、待ちやがれっ! 京妖怪!」

私、私、
「京妖怪じゃないーっ!」

駆けながら後方の淡島に向かって涙声でそう叫ぶ。

「ウソつけ、このヤローッ」

信じて貰えないっ

私は必死で逃げた。
後ろも振り向かず廊下が続く限り走り続ける。
そう、もう無我夢中。必死の必死で逃げた。


と、走り続けていると数メートル先に壁が見えて来た。廊下は右へと曲がっている。
それと共に前方周辺がなんだか騒がしくなって来た。
何かを破壊するような音や刀と刀が交わる音も聞こえて来る。

な、何?

私は一旦足を止めた。

もしかして前方の壁の向こうで戦いが繰り広げられてる?

巻き込まれたら逃げ出すのは、難しい。
私はそっと後ろを振り返る。
遠野の2人の姿は無かった。
追いかけるのを諦めたっぽい。
ほっとすると再び現れた難題に目を向ける。
壁の向こうの戦いだ。
この先の廊下は右へ曲がるようになっているが、壁の向こうで戦いの音が聞こえて来るから、もしかしたら戦いの真っただ中に出てしまうかもしれない。

それは嫌だ。
絶対、攻撃される。

でも、回れ右して来た道戻ったら、また淡島とイタクに出くわしてしまうかもしれない。

どうする、私ーっ!

その場でうーんと考え込んでいると、突然前方の壁が爆発したように吹き飛び、爆風と共に壁の欠片や何かの塊が私の方に飛んで来た。

「わわっ!?!?」

大きな塊が胸元にドンッと飛んで来て、押し倒され後ろに倒れた。
そして、そのまま廊下の板目に後ろ頭を思い切りぶつける。

「いったーーっ」

一瞬星が舞ったよ!!
って言うか、何が飛んで来たの!?

私は後ろ頭を押さえながら、頭を浮かせて胸の上に乗っている物体を見た。
それは身体の色が深緑色の鬼だった。
目を回して気絶しているのか、全く動かない。

「は……?」
なんで鬼?

と、視界の端に折り重なって倒れている異形の妖怪達が入って来る。

妖怪達が壁の向こうから吹っ飛んで来た?
ってことは……
強い妖怪が壁の向こうに居るって事っ!?

「ちょ、ちょ、ちょ、どいてーっ! 私戦いに関係ないから! 一般人だからー!」

鬼をどかそうともがもがしていると、壁の向こうから人影が現れた。

いーやーっ! そ、そ、そうだ! 死んだフリしよう!

ナイスアイデアを思いつき、もがくのを止め目をぎゅっと閉じた。
と、何故か艶やかで低い声音が耳に入って来た。

「舞香?」
「は?」

この声は、夜リクオ君!?

信じられない気持ちで目を開くと、崩れ落ちた壁の穴から夜リクオ君が銀の髪を靡かせ長ドスを肩に担ぎながら佇んでいた。
壁の向こうに見えた人影は妖怪化した夜リクオ君だった。
どっと胸の中に安心感が広がる。

リクオ君だ、リクオ君だ、リクオ君だ……っ!

夜リクオ君は不思議そうな顔をしながら、こちらに歩み寄って来た。

「何でこんなトコ居るんだい?」

居たくないけど、何故か居るの。すっごく居たくないけどね!

私は心の中で反論する。
いやだって、口を開いたら何故か嬉しさと安堵感がないまぜになり、何故か声が震え涙が出そうだったから。

リクオ君の前で泣きたくないっ!

夜リクオ君は私の上の鬼を蹴り飛ばすと、私の横に片膝を付き、ホラ、と手を伸ばしてくれた。
掴まった手が暖かい。
助かったんだ、と実感する。
と共に更に増した安心感で不覚にも我慢していた涙が目尻から一粒零れ落ちた。

「あ、や、これは、なんていうか、その、欠伸さっきしたからっ!」

私は言い訳しつつ、掴まれて無い方の手で目をゴシゴシ擦った。

「……ばぁか。無理すんじゃねぇ」

と、突然手を頭の後ろに回されグイッとリクオ君の胸元に引き寄せられた。
夜リクオ君の胸元は石鹸の香りがする。
普段なら恥ずかしいはずなのに、安堵感と一緒に何か熱いものが込み上げて来た。

泣きたい。思いっきり泣き出したい。
そして戦いを仕掛けられ、すごく怖かった事を言いたい。
でも、リクオ君に甘えた事言ったらきっと迷惑するかもしれないっ

私は胸から込み上げる熱いものを唇を噛み締め耐える。
でも、喉から痙攣したような音が漏れる。

「う……っく。……、……っ」

そしてじんわり両目から堪えきれなくなった涙が滲み出る。

泣くな、泣くな、泣くな……っ

そう自分に言い聞かせるけど、滲み出る涙は止まらない。
私は震える手で夜リクオ君の着物を強く掴み頭を胸に押し付けた。







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