抜き足差し足忍び足っ!

時代劇とかで寝る時に着る白い着物を着た私は、両裾をつまみ上げながら、足音をさせないようにそーっと寝かされていた部屋から遠ざかった。

と言うか、ここに来る前に着てた服どこ?
てか、誰が着替えさせたのー!?
という考えは、なんだか嫌な答えしか出て来そうにないので、考えるのを止めた。
だって、茨木童子に着替えさせられたとしても、漢の人に裸見られたってことで……いーやーっっ!!! 考えたくないっ、考えたくないー!

首をふるふる振りつつ曲がり角を右に曲がると……、鬼さんに出会いました。

うん。鬼。

頭に短い角が2本。ギョロッと動く目玉が一つ。大きな口の中に並ぶ牙。
そしてお腹がでっぷりと出っ張っていて、着ているものは布の腰巻のみ。
肌の色は人間では有り得ない赤色。

「お……っ」

鬼ーーっと叫びそうになるのを堪え、表情筋をひくつかせる。
そして、すぐに後ろから逃げ出せるように身を引く。
と、なぜか鬼は私の額を見ると、「新しいヤツか。あんまり、うろうろすんなよ」と声を掛けそのまま私の横を通り過ぎて行った。

あ、れー?

拍子抜けして肩の力が抜ける。

「なんで? 私人間なのに??」

ふと、先ほどの鬼が額を見ていた事を思い出し、額に手をやるとどんな角か判らないが見事に生えていた。

「あー、仲間と間違えられた? という事は……、ある意味、ラッキー? ………よっし!!」

怪しまれずに、この屋敷みたいなとこから出られる!!

素晴らしい光明を見出した私は、意気揚々と両手を振りながら歩き出した。


と、しばらく長い廊下を彷徨い歩いているとどこからか喧噪の声が聞こえて来だした。

え? え? え? どっかで戦いが起こってるっ!?
ま、巻き込まれないように、音から遠ざからないと!
って、どっちの道選べばいいのー!?

目の前には真っ白な襖。
廊下は左右に分かれている。
そして、聞こえて来る戦いの音は、前方から。

茨木童子がもしかして追って来てるかもしれないから、後ろに戻りたくは、ない!

ど、ど、ど、どっちが迂回の道!?

きょろきょろ、と目を左右に動かす。

よ、良し! さっきは右だったから次は左ー!
と、見せかけて右っ!

私は走りやすいように再び両裾を持って、すたたたたっと駆け出した。
と、また曲がり角を曲がった所で何かの物体とぶつかり、ごんっと額を打つ。

「っっっ!!!」

透明の小さな光が幾つも目の前を舞う。
あまりの痛さにぶつかった眉間を押さえて蹲っていると、女性の声が聞こえて来た。

「いてててて、誰だよ、オレの顎にぶつかって来たヤツは!」

ん、ん……? 女性の声なのに、一人称が”オレ”……?

私はなんだかその人物が気になり、確認すべく、痛みを堪えながら眉間から手を離した。

…………え、え!? も、もしかして、もしかして……

目の前に尻餅をついた格好で顎を摩る女性。茶色の髪に大きな胸をサラシで巻いている。

遠野の淡島ー!?







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