と、その心配は杞憂だった。
のんびりした感じの陰陽師さんっぽい人がやって来て、私達を応接室っぽい所へ案内してくれ、お茶と羊羹を出してくれた。
はー、ゆらちゃん、私達の後の事忘れてなかったんだ。
よかったー
立派なソファーに腰掛けながら、私は安堵の息を吐いた。
さて、と。
私は改めて室内を見回す。
原作の通りになるとすると、私達はここで過ごす事になる。
でも、こんなに立派な応接室が設置されてる家だから、きっと美味しい肉料理が出る事間違いなし!
期待に胸を躍らせながら、出された羊羹をパクリと食べズズッとお茶を啜った。
ごめん。羊羹、ちょっと苦手。
でも、出されたものは、きちんと完食しないと!
相手に失礼だとお母さんから教わったからね!
もきゅもきゅ食べてると隣に座っているカナちゃんが、私の顔を覗き込んできた。
ん?
首を傾げるとカナちゃんは、可愛らしい目で私を見つめる。
「舞香ちゃんってソレ好きなの?」
「それってコレ?」
人差指で手元にある羊羹を指さすとコクコクと頷かれる。
「好きって言うか……、普通?」
「そっかぁ、美味しそうに食べてるからてっきり大好物かと思っちゃった」
「そんなにおいしそうに食べてた?」
「うん。だから、私のも食べて貰おうかと思って……」
「え」
「だめ、かな?」
きゅるんとした可愛らしい目に見つめられ、嫌とは言えない。
可愛さって罪!
「嫌いだったら仕方ないよね。いいよ」と頷くと嬉しそうな表情で私の前に差し出される羊羹のお皿。
カナちゃんの笑顔に負けたよ。私……。
心の中で項垂れながら、増えた羊羹を口の中に入れた。
そして、あっと言う間に2日が過ぎた。
その間、氷麗ちゃんやゆらちゃんが居なくなったりしたけど、戦いなんて出来ないので大人しくしている事にした。
清継君達も外は危ないと外出は許されなかった。
出された食事は、なかなか美味しいものばかりだったが、肉料理は一つも出て来なかった。
「肉料理ー……」
応接間のテーブルにぐでーっと身体をうつ伏せにしていると、テレビを視ていた清継君が叫び声を上げた。
「こ、これは……っ!?」
「どうしたの、清継ー」
「何か面白い中継とかあったの?」
巻さんと鳥居さんが尋ねると、清継君はテレビに覆い被さっていた自分の身体をどかし、テレビの画面を皆に見せた。
「見たまえ! 諸君! 弐條城が突然現れたんだよ!」
「え? それがどうしたの?」
「弐條城って普通に建ってんじゃないの?」
「君達! 普段の弐條城は本丸と二の丸御殿しか残ってないんだよ!5層の天守閣が建っていたのは昔で今は跡地なのさ!」
「「えぇえーー!?」」
「じゃあ、このそびえたってるお城って何よ!?」
驚く巻さんと鳥居さんに続いて、私も驚いた。
なんと!? 原作では普通にお城が建ってたから、そんな事全く気にしなかった!
なーるほど? だから、リクオ君と鬼童丸との戦闘時、二条城の内部が変化したとき、思念がなんやかんやと言ってたんだねー
ほうほう、と頷いていると、テレビ中継でアナウンサーの人の悲鳴が響き渡り「しばらくお待ちください」という画面に切り替わった。
……、妖怪に遭遇して食べられたー!?
ゾゾゾッと悪寒が、背筋を駆けのぼる。
怖っ、怖っ、怖っ……!
皆も真っ青な顔をしながら、画面を見つめた。
「どうなってんの。京都は……」
「さあ……」
呟く巻さんと鳥居さんの後に続くように、カナちゃんが不安そうな声を上げる。
「ここって弐條城近いよね……」
「そうだったの?」
「そうだよ。舞香ちゃん、周り確認した時、聞いてなかった?」
「うん。肉料理の事考えてた!」
「……」
私の正直な言葉に強張った顔のまま苦笑を漏らすカナちゃん。
いや、肉料理店ばっか探してたのは覚えてるけど、弐條城の位置なんて覚えてない!
弐條城の位置知ってもお腹の足しにならないし!
うむうむと頷いていると、大きな轟音と共に部屋が揺れた。
「な、なに!?」
「地震ー!?」
と、ズウン、ズウンという音と共に、電気がフッと消え辺りが暗闇に包まれた。
なに、なに!?
何が起こってるんだっけ!?
テーブルにしがみ付きながら、原作の出来事を思い起こそうとするけど、揺れる部屋に思考が纏まらない。
天井の板や壁が剥がれ落ちる。
「こ、ここ、もうやばいんじゃないのかい!?」
清継君の言葉に、巻さんと鳥居さんが取り乱す。
「建物に潰されるのイヤー! だけど、外に出て妖怪に襲われるのもイヤー!」
と、混乱の中渋い声が大きく響いた。
「オイ、お前ら。うるせーぞ。寝らんねーじゃねぇか」
それは、ソファーに寝そべっていた、青田坊……いや、倉田君だった。
「倉田、くん……?」
悠然としている青田坊に皆茫然とした顔で見つめる。
そして青田坊はソファーから起き上がると両手をポケットに入れながら入口へと歩き出した。
「外、今危ないよ……? 何かあったら……」
青田坊は声を掛けたカナちゃんの方へ顔だけ振り向かせると、ニヒルに笑った。
「そんなにオレが心配か……?」
そりゃ、心配でしょ。カナちゃんは青田坊の事、人間だと思ってんだから。
心の中でそう突っ込んでいると、青田坊はドクロの数珠を手に持ち、「喝っ!」と唱えた。
すると、清継君をはじめとする巻さんや鳥居さん、そして島君にカナちゃんがパタパタとその場に眠って行った。
……。えーっと、何?この状況!?
「私、眠くならないのだけど!?」
そう言うと、青田坊がギロリと鋭い視線を向けた。
うわっ! こわいっっ!!
「お前……有永だったか?」
「はい! お肉大好きな有永です!」
思わずピシッと手を上げると、「ケッ、そういやお前半妖だったな。仕方ねぇ。そこで大人しくしとけ」と言われ、私は素直にコクコク頷く。
そんな私を置いて、青田坊は今度こそ部屋を出て行った。
これってどういう状況だっけー!?