私は勇ましい足取りで家路についていたが、ふと原作での京の出来事を思い出す。

えーっと、清継君達は京都に着くとゆらちゃんと会って、そのまま保護されるんだっけ?
それで部屋の中で過ごすけど、……あ! 確か、しょうけらって言う妖怪にゆらちゃんが匿ってくれた本家潰されるー!?
いや、いや、でも最後は、皆無事だったよね?
………、良し! 怖い目に一度遭うけど、羽衣狐戦に巻き込まれるフラグは無い!
隙を見て肉料理を堪能してみせる!

「待ってて! 肉料理ー!」

私は帰途を急いだ。


家に辿り着くと、私は玄関に置いてある靴を見る。
お母さんがいつも履くサンダルはある。と、言う事は今は居るってことで……

「ただいまー!」

声を上げると、ダイニングキッチンの入口から、白いフリルの付いたエプロンを身に着けたお母さんが顔を出した。

「おや? 舞香。いやに早く帰って来たのう。どうじゃったのじゃ? ばーべきゅーとやらは、楽しんで来たかえ?」

うーん、あははー、と言いつつ靴を脱ぎ、お母さんに近寄った。

「バーベキューじゃなかったよ。今度京都に行こう、っていう話しをするだけだったよ」
「そうかえ。土産を期待してたのじゃが、残念じゃのう。しかし、京かえ。あの時は結界があり入れなんだのう」

お母さんは近寄った私をテーブルに座るように促すと、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、コップに注ぐ。

「京に入れなかった?」
「そうじゃ、入りたくても結界に弾かれてしもうてのう。日の本の地を踏んで以来訪れた事の無い土地の一つじゃ」

そう言えば、原作では400年前花開院秀元さんが、京に結界張ったんだっけ?
それに、日の本の地を踏んで以来? って、事は、お母さん、日本の妖怪じゃないって事?
………。
お母さんの生まれた土地とか聞いてみたいけど、今は、それよりも重要な事がある!

私は拳を膝の上で、ぐっと握りしめると私の前に麦茶の入ったコップを置くお母さんを真剣な表情で見上げた。

「お母さん。私も皆と一緒に旅行参加していい?」
「だめじゃ」
「えー! お母さん、お母さん、一人じゃなくて、皆で行くんだよ? 危ない事ないって!」

お母さんは私の言葉に眉を顰めた。

「そのような事を言って、前回あの童(わっぱ)に襲われたじゃろう!」

まだ言ってるのー!

「もう! あれは、ごーかーい! あのね、あのね、京には魅惑の美味しい肉料理があるらしいんだ!」
「ほう。京に美味なる肉料理があるのかえ?」
「うん! だからっ」
「舞香。旅行でなくとも家族旅行でも良いじゃろう? 背の君ならば、必ず賛成してくれるぞえ」
「お母さん、さっき入れないって言ったじゃん!」

お母さんは私の言葉に、息を飲んだ。しまった、と言う顔をする。

「ぬうっ……。そ、それでは、神戸旅行ではどうじゃ? 肉が旨いらしいぞえ?」

むう、お母さんは断固として反対するつもりだ。
でも、肉料理! 諦めきれない!!

「でも、京都の肉料理も捨てがたいの!」
「だから、だめじゃ! もし危険な目にあったらどうするのじゃ!」

うん。この時期羽衣戦があるから、危険だと思う。
でも、滞在している間、ゆらちゃんの家でまったり出来るから、問題なし!

「ただ肉料理食べに行くだけだから、危険な事全く無いってば!」

諦めない。私の生き甲斐とも言える肉料理の為なら、絶対、諦めない!

しかし、お母さんはなかなか折れてくれなかった。

「だめじゃ!  そのように気になるならば、京の店に注文すれば良いじゃろう?」
「お店でしか食べれないお肉があったら、どすんの!? 現地に行く方がいい!」
「だめじゃ。諦めるんじゃ」
「いーやっ」

私とお母さんの攻防は、お父さんが仕事から帰って来るまで続けられた。








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