昨日の事を思い出すと、心臓がドキドキして顔が熱くなる。
どうしたの!? 私!
そう。リクオ君はただからかって来ただけ。
こんなにドキドキする必要は無い。
判ってる。判ってるのに、顔が火照る。
「うー、リクオ君のばかー!」
そう言いつつ、私は枕を持ち顔を埋めたまま、ベットの上をゴロゴロ転がった。
と、また下の階で電話の音が鳴り響いた。そして、すぐその音は止む。
きっと、お母さんが電話を取ったのだろう。お母さんはまだ買い物に出かけてないので、下に居る。
今度はうー、うー、と枕に顔を引っ付けて唸っていると、お母さんに呼ばれた。
また清継君が電話をかけてきたみたいだった。
「……何の用だろ?」
原作での夏休み初めの頃の出来事は、もう終わったはず。
次は、原作通り行けば遠野編だけど、清継君には関係ないし……。まあ、私もだけど。
そう思いつつ、階段を降り、受話器を耳に付けた。
「もしもしー」
『やあやあ、有永さん! 腹痛は治ったかな!? はっはっはっ、今日は重要な案件で集まって貰いたくて連絡したんだよ!』
「重要な案件?」
はて? 何だろ? はっ、もしかして皆を集めてバーベキューでもするとか!?
「もちろん、参加するよ、清継君! 何か持って行くものある!?」
『流石有永さんだ! 集合場所は浮世絵町駅だ! 燃えて来たぞぉぉ! じゃあ、待ってるからね! 有永さん!』
おぉ! 持ち物の事を言わないって事は、全部清継君出し!? 流石、お金持ち!!
「うん、お腹空かせる為に走って行くよ! じゃ!」
私は素早く受話器を置くと、スキップしながら部屋に戻り、服を着替えた。
清継君が食材を用意するのなら、きっと高品質のものばっかりなんだろうなぁ……
口の中で蕩ける肉もいいけど、噛んだら肉汁がジュワッと溢れ出る肉も最高なんだよね!
いっぱい、食べるぞー!
ウキウキしながら、お母さんに出かける事を伝えると、私は駆け足でいつもの駅へと向かった。
浮世絵町駅に集まったのは、巻さんに鳥居さん、そしてカナちゃんと発起人の清継君の4人だけだった。
私はカナちゃんに笑顔で駆け寄った。
「カナちゃん、数日ぶりー! 元気だった!?」
「あ、舞香ちゃん、久しぶり。舞香ちゃんだから日焼けして真っ黒になってるかと思ったけど、真っ白なままだね」
「うん! 漫画漬けの日々だったから! カナちゃんも焼けてないよねー。やっぱり、読モやってるから?」
「んー、そんな感じかな?」
そう数日ぶりに会ったカナちゃんと雑談に話しを咲かせていると、清継君が大きく咳ばらいをした。
「ゴホンッ、聞いてくれたまえ! 実は君たちに重要な話しがあるんだが、まだ人数が揃ってないので、河原に居る奴良君と合流してから発表させてもらうよ!」
と、巻さんがうろんそうな顔で清継君を見る。
「どうして奴良が河原に居るって知ってるのさ。もしかして衛星で見張ってたりすんのー?」
「見損なわないでくれたまえ! 巻さん! さっき奴良君家に電話したら、近くの河原に出かけていると言われてね」
「へー」
清継君の言葉に、鳥居さんが意外そうな声を漏らす。
ほほう、それで河原でバーベキューをしようと思いついたんだね!
リクオ君、どうして川に行ってるのか判らないけど、ナーイス!
心からの賛辞をリクオ君に送っていると、さっそく移動する事となった。
河原に着くと、皆で土手の上からリクオ君がどこに居るか見回した。
と、川の岸辺で座り込んでいるリクオ君を発見した。
「あ、あそこに居る!」
私がリクオ君の居る方を指さすと、清継君は「奴良くーん!」と叫びながら意気揚々とそちらに向かった。
清継君の叫び声に気が付いたのか、リクオ君は何かを川へ放り投げるとこちらへ振り向く。
「みんな、どうしてここにっ!?」
驚いた表情のリクオ君に、清継君は土手を下り愉快そうに「家の人に聞いたらここだって聞いてね!」と言いながら近づいた。
私達も清継君に遅れないよう、後を追う。
近寄るとふいにリクオ君と目が合った。
そのとたん、また昨日の夜の記憶が蘇って来た。
すごく恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、顔が熱くなる。
ううっ、どういう顔すればいいのー!
と、私を見たリクオ君も見る間に顔が赤くなり、それを隠すかのように自分の手の平で口元を覆い、私から視線を逸らした。
あ、れ? なんで視線を逸らすんだろう?
それに胸が傷ついたみたいに少し痛くなった。
私は思わずリクオ君に向かって口を開く。
「あの、リクオ君、私なにか「奴良君、聞いてるかい? 夏休みなのにゆら君は京都に帰ってしまったんだよ!」
悪い事でもした? と続けようとしたら、清継君の言葉が遮った。
うー、聞きたかったのに……
ジト目で清継君を見るが、清継君は私の視線に構わず言葉を続けた。
「そう。京都なんかにだよ…‥! 判るかい!? ボクの気持ちが!」
「あははは……、いや、まったく……」
詰め寄る清継君にリクオ君は苦笑しながら小さく首を振る。
と、近くで様子を伺っていた鳥居さんと巻さんが、口を開いた。
「京都はゆらちゃんの実家なんだから、夏休みに帰るのって普通でしょ?」
「清継ー、みんな集まったじゃん。話しって何よー」
「ん? バーベキューの話しだよね? お腹空かせて来たんだよ!」
私は巻さんと鳥居さんに笑顔を向けた。
しかし、私の言葉に清継君が大きな声で否定した。
「有永さん、何を勘違いしているんだい!? ボクが話したい事はもっと別の事だよ!」
「えー……」
私はガックリ肩を落とす。
「バーベキューだと思ったから、来たのにー……」
カナちゃんが、苦笑しながら私の肩をぽんぽんと叩いて慰めてくれる。
うう、カナちゃん……優しいっ!
じーんとしながら、カナちゃんを見ていると、清継君は言葉を続けた。
「ふふ、聞けばきっと有永さんもバーベキューより喜ぶ事となるさ! 京! 京と言えば歴史……と妖怪だ! と、言う事でみんなで京に旅行に行こう!」
おぉー! と巻さん、鳥居さんから感嘆の声と拍手が上がる。
「うー、旅行も楽しそうだけど! って、京?」
あれ? こういう話しって原作にあった、ね。
確か、羽衣狐との闘いの序章だったっけ?
って、すっかり忘れてたー!
私はそっとリクオ君の方に視線を向けた。
リクオ君は清継君に何か言おうと口を開くが、すぐに口を閉じる。
何を言おうとしてたんだろう?
リクオ君?