あれから2日経つが、何も起こらなかった。
恐る恐る外に出ても、陰陽師のあの2人とは出くわさない。
正直、ほっとした。
逃げるが勝ちと心に決めていても、再び再会した事を考えると心臓がきゅっと締まる。
今日も朝からベッドの上でのんびり友達から借りた青年格闘漫画を読んでいると、電話が階下から鳴り響く。
しかし、お母さんは買い物に出ていて居ないのか、ずっと止む事無く、鳴り響いている。

うー、面倒ー

私は鳴り止む気配を見せない電話に眉を顰めながら、階段を降りると電話を取った。

「もしもし………」
『やあやあ、有永さん! やっと出てくれたね! 清継だよ。今日、うちに皆で集まるのだが、有永さんも来てくれたまえ!』
「え」

この暑い中、清継君の家に行くのー!?
いやだー……

しかも、前は皆で行ったから道筋をあまり覚えてない。
と、言う事で

「パス1で」
『ハッハッハッ、バスでいの一番に来てくれるんだね! 判ったよ、待ってるよ! 有永さん!』
「ちょーっと待ったぁーーっ! 待った、待ったーーっ!」

誰も行くって言ってないよ!? 清継君! 聞き間違えー!

『なんだい? 有永さん?』
「いやいやいや、パスって言ったのは、えーっと、あーっと、そだ! 今日、外せない用事があって、行けないって意味で…‥、だから……」
『え!? 来れないのかい!? 今日はみんなでまた旅行に行く為にエースのゆらくん探しをするんだぞ! 用事をすぐ済ませてすぐ来てくれたまえ!』

こらこら、何故強制参加になるー!
って、あ、れ? エースのゆらちゃんを探しに行く?

頭の中で原作での出来事が浮かんで来る。
確か夏休みに入ってから、ゆらちゃん探しが勃発。
そして、ゆらちゃんを初めに見つけたリクオ君とゆらちゃんのお兄さん、竜二さんと戦いを始める。

って、私も鳥居さんや巻さん達と一緒にあてどもなく河原を探してればいいけど、もしも……、もしも、リクオ君と一緒だったら、確実にあの2人とご対面ーっ!?
リクオ君は、途中で夜リクオ君に変身して戦えるからいいけど、私は自在に変身できない!
竜二さんと夜リクオ君が戦っている間、魔魅流さんに攻撃されたら……確実に死ぬ!!
いや、雷の耐性はあるけど、殺す気満々で蹴ったり殴られたりしたら、絶対死ぬ!!

ゾゾゾーッと悪寒が背筋を駆け抜ける。

「あ、ははは………、しにたくない、絶対、死にたくない……」
『え? 何か言ったかい? 有永さん?』
「いやいや、何でもない、何でもない、あっ、いたたたたたっ! 急にお腹が!!」
『えぇ!? どうしたんだい!? 有永さん!』

私は、弱弱しい声で言葉を続けた。

「ごめん……、清継君。行きたいんだけど、急にお腹が痛くなっちゃって……、今日は行けそうにないや」
『それは大変だ! 大丈夫かい!? 有永さん!』
「あー、1日休めば元気になるよ……。ほんとごめんー」
『仕方ないなぁ。じゃあ今日1日ゆっくりしておきたまえ。はっはっはっ、旅行の日程が決まったらまた連絡するからね!』
「うん。じゃねー」

私は受話器を置くと、ほうーっと大きな安堵の息を付いた。
そして、ぐっと拳を固める。

よっし! 危険回避成功ーー!
ナイス自分!

「旅行っていう言葉も何か悪い予感がひしひしするけど、その時はまたパスすればいいよね!」

そして、再びぐうたら漫画を読むべくスキップしながら自分の部屋へと戻った。


枕元に置いてある電子時計が23時を示す。
友達から借りた青年格闘漫画も読み終え、明日返すのみ。

ふう、合計20冊は読みごたえあったー!

「今度は残り31巻全部借りようっと!」

るんるん気分で、スタンドの灯りを消し、目を閉じた。
すやすやと眠っていると、何かの気配に意識が浮上する。

「んー……、なに……?」

薄っすらと目を開けると朱色混じりの金の目があった。

「わっ!!」

驚愕に思わず上半身を起こすと、ゴンッと前頭に何かがぶつかった。
目の前にチカチカと小さな星が舞う。

「あいたたた……」

痛む前頭を撫ぜてると、左脇から「いってぇ……」と低い声で呻く声が聞こえて来た。

この声は、夜リクオ君!?

慌ててスタンドのスイッチを付けると、座り込み鼻を押さえた夜リクオ君の姿がその灯りによって照らされた。

「なんで、リクオ君が居るのー!?」








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