「お母さん?」
どうして、ここに?
まだ連絡も何もしてないと思うんだけど……。 あ。リクオ君か奴良家の誰かが家に連絡してくれたのかな?
そう思っていると、私の手を握っていた夜リクオ君をドンッと押しのけ、お母さんは私にガバリと抱き着いて来た。
相変わらず良い香りが鼻をくすぐる。
「舞香! 舞香! 暗ろうなっても戻らぬゆえ、心配したのじゃぞ!」
「あー……」
そう言えば攻撃された時は、もう辺りが薄暗闇に包まれていた。
あれからここで気が付くまで、どのくらい時間が経ったか判らない。
お父さんとお母さんにすごく心配かけたかもしれない。
「ごめんなさい。お母さん……」
申し訳なくて仕方ない。
「舞香が無事ならば良いのじゃ」
そう言うとお母さんは私の頭を撫ぜ顔を上げた。そして、今更のように周りを見回した。
そして眉を少し顰めると、ひたと私を見つめた。
「舞香。何故このようなところに横になっておるのじゃ? 何事かあったのかえ?」
「え?」
そう言えば!
今の状況は、白い夜巻きを着て布団から半身を起き上がらせている状態だ。
普通に友達の家へ訪問している状態なら、こんな姿になってない。
でも、この白い夜巻きは、夜リクオ君が着替えさせたんじゃないって事は判る。
夜リクオ君はからかって来るけど、一応女の子の私を着替えさせるなんて事するはずはない。
多分、水の攻撃で服が濡れてたから、奴良家の女妖怪さんが着替えさせてくれたんだろう。
濡れたまま寝かすと、布団がびしょびしょになるしね!
でも、お母さんにどう説明すればいいんだろ?
「陰陽師に攻撃された? いやいや、正直に言ったら、お母さんにもっと心配かけるし……うーん。ちょっと転んで頭打った事にしたら……」
「舞香!」
「は、はいぃ!?」
「陰陽師に攻撃されたとは、どういう事じゃ!?」
「え!? なんで、そのこと知ってんの!?」
「………。口に出してたぜ」
陰陽師に襲われてた事を知っていたお母さんに驚く私に、夜リクオ君が自分の膝に肘を付き頬杖をしながら、呆れた口調で呟く。
私の口の正直者ー!!
頭を抱えて、どうしよう、どうしよう、とぐるぐるしていると、お母さんが更に秀麗な顔を近づけて詰め寄って来た。
「舞香! きちんと話すのじゃ!」
「う、あ、えーっと……その」
「オレも詳しく聞きてぇ……」
夜リクオ君も、低い声で口を開く。
私は、ぐるぐると原作の事を思い出す。
さっき理不尽な理由で攻撃して来たゆらちゃんのお兄さんの竜二さんと、魔魅流さん。
最初は相容れなくて戦いになってしまうけど、話しが進むにつれ、なんだかんだと言いながらも協力し合って行くんだよね?
でも、ここで私が2人に攻撃されたって話したら……
お母さんはきっと怒ってくれるだろう。
きっと、夜リクオ君も。だって、原作では友達のゆらちゃんを竜二さんから攻撃されて怒ってたもの。
現実の夜リクオ君も友達を大切にする人だと思う。
でも、なんだか夜リクオ君に迷惑かけたくない。もちろん昼リクオ君にもだ。
私の為に怒りを募らせるなんて事させたくない。
私は2人にへらっと笑った。
「あははー、頭打った所為か、攻撃して来た陰陽師の顔忘れちゃったよ。ごめんー!」
夜リクオ君は私の言葉に無言で眉を顰める。
そしてお母さんは、目をカッと見開くと、私の頭を触りまくって来た。
「どこじゃ!? どこを打ったのじゃ!? ここかえ? それともここかえ?」
「うわっ、お母さん、今は痛くない、痛くないから! っつー!」
お母さんが後頭部と側頭部の間に触れたとたん、ヅクンッと痛みが走る。
起きた時、痛かった場所だ。
もしかして、たんこぶになってる?
痛む場所に手を当てていると、お母さんが慌てたように夜リクオ君へと声を張り上げた。
「童(わっぱ)、舞香を病院へ連れて行くゆえ、車を呼ぶのじゃ!」
「え? ちょ、ちょ、お母さん!? ただのたんこぶだよ!?」
お母さんの言葉を慌てて止めに入ると、声を掛けられた夜リクオ君は慌てるお母さんを宥めるように静かな声を発した。
「落ち着けよ。舞香のお袋さん……。今の時間、病院は開いてねぇ。鴆を呼んでやる」
「”ぜん”? 何者じゃ?」
夜リクオ君は、訝しげな目を向けるお母さんに応えず、庭に面した障子に向かって一言声を上げた。
「鴉」
「はっ!」
一秒も経たずに頭巾を被った小さい鴉が現れた。どこかで待機していたのかもしれない。
って、鴉天狗ー! あの小さなボディが可愛い! 触ったらすごく気持ち良さそうだ。
じーっと鴉天狗を見ている私を尻目に、夜リクオ君は短く命令を下した。
「鴆を呼んでくれ。それから、飯もな」
ん? ご飯? なんで?
不思議に思い夜リクオ君を見ると、私の視線に気付いたのか顔を少しこちらに向け、ニッと笑った。
「帰りに襲われたんだ……。飯食ってねぇだろ?」
夜リクオ君の気遣いに思わず目を瞠ってしまった。
え? え? え?
なんだか、今日のリクオ君、優しい!
「是非、おかずは肉でお願い!」
思わず欲望を口にしてしまった私に、夜リクオ君はクッと小さく笑った。
「そんだけ元気なら、鴆はいら「若ーーっ!」」
ドタドタドタと廊下を駆ける足音が聞こえて来たかと思ったら、夜リクオ君の名を呼びながら、障子の向こうから氷麗ちゃんが姿を現した。
台所仕事をしていたのか、肩から脇に紐をたすき掛けをして着物の裾を上げていた。
急いで来たのか、肩で小さく息をしている。
そして、何故か手に氷で出来た薙刀を持っていた。
え? 何故、薙刀?
唖然として見ていると、氷麗ちゃんはお母さんに向かって薙刀を構えた。
「ご無事ですか!? 若! この氷麗が来たからには、雷獣に若へは指一本触れさせません!」
はい?