ふ、と意識が浮上する。
薄目を開けると、木目の天井が目に入って来た。
ここ、ど、こ……?
わたし、確か……。
今までの事を思い出そうとすると、頭がズクンッと痛んだ。
「いっ……!」
「舞香……。気ぃ付いたのかい?」
う、え? この声は夜リクオ君?
いつの間にか布団の中に寝かされていた私は、痛む頭に右手を当てつつ、首だけ動かし声がした方へ顔を向けた。
「あ、れ? なんで、リクオ君が居るの? 私、家に帰ってて……」
「ああ……」
「ここ、どこ……?」
「オレの家だ……。路地裏で倒れてる所を連れ帰ったんだ」
「路地裏……?あー……確か、暗がりに引っ張り込まれて……、あの2人に攻撃されて……それから……」
と、言ったところで左手がぎゅうっと強く握り込まれた。
「いたっ! ちょ、ちょ、痛いよ! リクオ君! って、いつの間に手握ってたのー!?」
「ずっと握ってたぜ? 舞香……」
「は、はい?」
手はきつく握られたままだが、夜リクオ君の据わっているような目に何も言えなくなる。
思わず、どもりつつ返事をすると、切れ長の目が私を静かに睨んだ。
「なんで引っ張り込まれてんだ……?」
「い、いや、突然だったし、抵抗する間もなかったから……」
「へぇ……」
低い声に怒気が籠っているようで、なんだか怖い!
私は必死に左手をリクオ君の手から離させようと動かすが、離れない。
反対に更に力を込められる。
「痛い、痛い! ちょ、骨折れるって!」
逆効果ー!?
そう叫ぶと、握られた手の力が少し緩んだ。しかし、未だ握られたままだ。
なんで、握ってんだろ?
と、心の中で首を傾げていると、リクオ君の紅い目が私を見据えた。
「オレは送ってくっつーたよな……?」
「は、はい! 確かに! で、でも」
「昼のオレは帰ってからも心配してたんだぜ? その心配が大的中だ……」
しんぱい……?
私はまじまじと夜リクオ君を見る。
「え、っと、あの、今のリクオ君も?」
「当たりめぇだろ?」
その言葉に何故か胸の中がどくんっと熱くなると同時に心臓が早鐘を打ち出した。
って、何!? この身体の反応は!?
静まれ、心臓! 優しいリクオ君が友達の事を心配するのは、当然の事!!
私は、心を静める為に、深呼吸をすると、素直な気持ちを言葉にした。
「ありがと……、リクオ君」
それを聞いた夜リクオ君は、微かに口角を上げた。
「で……、誰にやられたんだい?」
「誰……って……」
言ってもいいものかな?
攻撃して来たのは、ゆらちゃんのお兄さんこと、竜二さんと魔魅流さん。
友達のお兄さんが、同じ友達の私を攻撃したと知ったら、優しいリクオ君だ。悩むかもしれない。
だから、私は知らないフリをした。
「多分、陰陽師」
「………舞香」
「はい?」
夜リクオ君の真剣な眼差しに、私は首を傾げた。
「今度からは、オレが送る」
「………、はへ?」
間抜けな言葉が、私の口から飛び出る。
でも、いつもはからかうように笑ってくれる夜リクオ君なのに、真顔で私を見つめ続けている。
あれ? いつもと反応が違う?
もしかして……、責任を感じてる?
そう言えば、原作でもリクオ君は人一倍責任感が強い。
きっと、自分が送れなかったから、私が陰陽師と出会ってしまった、と思ってるんだろう。
ほんと、真面目だー……
私はなんだかそれが可笑しく思えて、安心させるようにリクオ君に笑みを向けた。
「リクオ君が責任感じる事ないって! こうして生きてるから、大丈夫ー! 過ぎた事は忘れて、忘れてー!」
「…………」
夜リクオ君は一瞬大きく目を見開き固まったが、すぐに憮然とした顔になると私の額を指で弾いた。
「っ、たーっ! ちょ、デコピン、地味に痛かったよ! 私、一応、か弱く倒れたんだよ!」
「元気じゃねぇか……。つーか、舞香に対しては責任とかそんなもんじゃねぇ……」
「ん? じゃあ、なんだろ?」
うーむ? とデコピンされた額を片手で撫ぜながら考えていたら、突然庭の方から、ドンッという衝撃音がした。
一瞬、身体が飛び跳ね、思わず上半身を起こす。
「な、何!? 今のお……」
私が言葉を言い終わらないうちに、庭と面した障子が勢いよく開け放たれた。
「舞香!! ここかえ!?」
開け放ったのは、人間の姿に角を生やしたお母さんだった。