休憩をし終えた後、また2個の楽しい乗り物に乗り、上機嫌の私はまた乗りたい乗り物を見つけると前方を指さした。
前方の少し離れた場所で大きな船体が振り子のように揺れている。

「リクオ君! 今度は、あれ乗ろう! パイレーツ!」
「そうだね! うん。行こう!」

2人並んでさっき乗った乗り物とかの感想を言いながら、パイレーツに向かって歩いていると、遠くからリクオ君の名を呼ぶ可愛らしい女の子の声が聞こえて来た。
ん? と声が聞こえて来る方向へ顔を向けると、遠くから髪の長い女の子が「リクオさまー!」と片手を振りながらこちらへ猛スピードで駆け寄って来ていた。
それは、夏なのに首にマフラーを巻いている氷麗ちゃんだった。
氷麗ちゃんは、リクオ君の前で足を止めると、凄く嬉しそうな顔でリクオ君の顔を見、その左手を両手で包み込んだ。
そして、それをぎゅっと握る。

おぉ!? 氷麗ちゃん、大胆!!

そう思うと共に、何故か胸の奥がツキン、と鋭く痛んだ。
そして胸の中に仲が良い2人をこれ以上見たくない、と言う思いが沸いて来る。

どしたの!? 私! なんでこんな気持ちが沸き上がって来るの!?
私の好きなのは、清継君!!

そう心の中で、沸き出る感情に言い聞かせるのに、今度はだんだんと胸が苦しくなって来る。

うー、なんで苦しいの!?

自分の変化に眉を寄せて考え込んでいると、耳に氷麗ちゃんの明るい声が飛び込んで来た。
それに釣られるように顔を上げると、氷麗ちゃんがリクオ君の顔に自分の顔を近付け、覗き込んでいた。
その2人の顔の近さにまた胸がズキンと痛む。

「やっと見つけました! リクオ様! 探してたんですよ!」
「アハハ……、氷麗、ごめん」

リクオ君は後ろ頭を掻きつつ顔に苦笑を浮かべ謝るが、ふと何かを思い出したように顔から笑みを消した。
そして自分の手を握りしめている氷麗ちゃんの両手を見、そして私をちらりと見た。
私はその視線に自分の感情を気付かれたくなくて、咄嗟に笑顔を作りそれをリクオ君に向けた。

「ん? ん? どしたの? リクオ君?」

首を傾げると、リクオ君はなんだか、まいった、と言う風に右手で頭を抱えた。
そして、顔を上げると自分の手を包み込んでいた氷麗ちゃんの手を外す。
氷麗ちゃんはリクオ君のその行動に大きな目を丸めポカンとしたような表情になった。
そんな氷麗ちゃんに向かってリクオ君は、口を開いた。

「みんなが誤解するから、こーゆー事はダメだ。氷麗」
「……リクオ様?」

グルグル目を更に大きく見開き、今までそう言うことを言わなかったのに何故? というような疑問を込めてリクオ君を見つめる氷麗ちゃん。
と、後ろから島君が大きく肩で息をしながら、追いついて来た。

「ひぃ、ひぃ、及川さん、速いっすよ……」

氷麗ちゃんは、ちらっと島君を見るが、すぐにリクオ君へと視線を戻す。
リクオ君は氷麗ちゃんを追いかけて合流した島君に明るい笑顔を向けると、「じゃあ、4人揃った事だし、皆でパイレーツ乗ろうよ!」と口を開いた。

あ、パイレーツ! パイレーツに乗るんだったんだよね!

私はリクオ君の言葉に大きく頷く。

楽しい事してれば、さっきの泣きたいような気持ちも忘れられる!

走り疲れたのか、足取りがフラフラな島君を促し、私達は揃ってパイレーツへと向かった。


そして、遅いお昼ご飯をフードショップで取り、売店でお母さんへのお土産を買った。
その後、今度は迷路やお化け屋敷に入り、面白おかしい時を皆で過ごした。
時間が経つのは早いもので、あっと言う間に日が傾きかけている。

夕日が眩しい。

私達は遊園地を出ると楽しかった事を離しながら、浮世絵町駅に向かった。
そして、そこで解散と言う事になった。

「舞香ちゃん。送ってくよ。舞香ちゃんのお母さんと約束もしたしね!」

島君は先に帰り、3人で待合室内にて電車を待ってると、リクオ君にそう言われる。たが、私は首を振った。

「いやいや、電車の方向反対だから。リクオ君が帰る時大変だよ。それに、お母さんの事は気にしなくっていいって! だから、ここで解散ー!」

私はそう言葉を発すると、時計を見た。
もうそろそろホームに行った方が良いかもしれない。
席を立ち、2人に手を振りながら歩き出そうとした私の右手首を、リクオ君がガシッと掴んだ。

「ん?」
「待って! 舞香ちゃん! 女の子一人で家に帰せないよ!」
「いやいやいや、ほんとに大丈夫だから」
「ダメだ! ボクには送る責任があるから!」

と、ベリッとリクオ君の手が私の手首から離された。
離したのは、ムッとした顔の氷麗ちゃんだった。

「若! 有永なんて送らなくていいんです! それに、今日は鴆様もいらっしゃるじゃないですか!」
「え、でも、氷麗……鴆君は夜に」
「ダメです!」

そんな仲の良さそうなやり取りをする2人を見てると、また胸の苦しさがぶり返して来そうになる。
私は、それを振り切るようにブンブンと頭を振ると、「また遊ぼうねー!」と言って手を大きく振り、ホームに向かって駆けだした。

「あ、待って!」

と、リクオ君の声がしたが、気の所為にする。

引き留められてる時間が思ったよりもかかったのか、ホームに辿り着くと、すぐに電車が来た。
私は、それに乗るとポスンと空いてる席に座り、今日一日に乗った乗り物を思い出す。
そして、楽しかったなー! と一人呟いていると、ふいに誰かに見られているような強い視線を感じた。

「ん?」

私は周りを見回すが、こちらを向いてる人は誰も居ない。

「気の所為かな? んー、まあ、平凡顔の私を見る人なんていないから、きっと気の所為!」

そう結論付け、私はまた楽しい思い出を思い出そうとするが、また強い視線を感じる。

気の所為、気の所為、気の所為。

と心の中で繰り返し呟き、刺すような視線から気を逸らした。
やっと降りる駅に電車が到着すると、私は足早に電車を飛び出した。
視線はもう感じない。
ふう、と額を拭うと、安心からなのか、小さくお腹が鳴った。

「お腹へったー。今日のご飯何かなー? モモの唐揚げもジューシーだけど、油の乗ったステーキも捨て難いよねー」

夕ご飯に思いを馳せながら、駅を出ると家に向かっててくてくと歩く。
と、突然横から右腕を掴まれると、ビルとビルの間の暗い隙間に、強く引っ張り込まれた。

「えっ!?」
ちょ、何!?!?!?








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